食卓を彩る、旬の「食用菊」
HEALTH
2023.11.05
薬学博士 池上文雄先生に教わる、旬の食材の知られざるパワー。
身近な食べものの歴史や栄養、効果・効能を知って日々のインナーケアに役立てましょう!
第26回は「キク(食用菊)」です。
中国を原産とするキク科の多年草のキク(菊)の頭状花(菊花)を食用に品種改良した菊ですが、生態、形態上で観賞用の菊との明確な相違はありません。菊は涼しい土地を好む性質があるため、日本では主に東北地方や新潟県などを中心に栽培されています。
古代より中国で延命長寿の花として菊茶、菊花酒、漢方薬として飲まれていた野菊(シマカンギク・アブラギク)の交雑種が奈良時代に伝来しました。我が国では苦味を少なく味や香りを良く、花弁を大きく品種改良して栽培されるようになりました。江戸時代になってからさらに改良が進んで食用菊として民間で食べられるようになり、江戸時代の食物の本『本朝食鑑』(1697年)に「甘菊(かんぎく)」の記述が見られます。
食材としての旬は10月~11月です。
現在では、花弁の色や大きさなどが異なった特性を持つ多くの栽培品種があります。食菊、料理菊とも呼ばれ、料理のツマに使われる小輪種、花びらのみを食用とする大輪種に大別されます。
特に、青森県八戸市特産の「阿房宮(あぼうきゅう)」は有名な食用菊の品種で、黄色の八重咲の大輪花です。
阿房宮
山形県では「もってのほか」、新潟県では「カキノモト・おもいのほか」と呼ばれる延命楽(えんめいらく)は明るい赤紫色の八重咲の中輪花です。
もってのほか
菊花には精油、アントシアニン(クリサンテミン)、β-カロテン、ミネラル(マンガン・カリウムなど)、ビタミンなどが含まれ、特にβ-カロテンやビタミンC、葉酸をはじめとしたビタミンB群などの抗酸化活性の高い栄養素が多く含まれています。紫菊花には抗糖化作用があるとされ、アンチエイジングの観点からも注目されています。
漢方では頭痛・めまい・目の充血・視力低下・化膿性の炎症に用いられます。さらに近年の研究から解毒・抗炎症作用などが明らかになっています。
干し菊
調理に当たっては、シャキシャキ感のある新鮮なものを選びます。加熱しても色褪せないのが特徴です。阿房宮は香りと甘みが強く舌触りも良いので、茹でてお浸しや酢の物、和え物、サラダ、天ぷらなどの料理に使われます。延命楽は苦みがなくほのかに甘くて食味が良いので、茹でて酢の物、和え物、汁物などにして食べます。食用小菊は精油の解毒・抗菌作用を利用して刺身やちらし寿司などにツマとして添えられますが、醤油に花弁を散らして刺身と一緒に食べて、彩り・香りを楽しむ食べ方もあります。
花びらを蒸してから板状に乾燥させた干し菊(菊海苔)などの加工品を利用するのも良いでしょう。
いかがでしたでしょうか。
愛でても食べても楽しめる菊を、ぜひ食卓に取り入れてみてくださいね。
■旬の食材で薬食ライフ 過去の記事
第1回「南瓜(カボチャ)編」
第2回「栗(クリ)」編
第3回「山芋(ヤマノイモ)」編
第4回「大根(ダイコン)」編
第5回「葱(ネギ)」編
第6回「白菜(ハクサイ)」編
第7回「苺(イチゴ)」編
第8回「独活(ウド)」編
第9回「アスパラガス」編
第10回「キャベツ」編
第11回「ミョウガ(茗荷)」編
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第13回「梨(ナシ)」編
第14回「椎茸(シイタケ)」編
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