2021.09.06
「薬食」と聞くと、薬効のある特別な食材を使うイメージを持たれる方も多いと思いますが、実は身近な食材にも薬のような働きがあるのです。
ちょっとした知識で、普段食べる物への視点が変わり、健康に近づける選択ができるようになります。
薬食の考え方の歴史は古く、中国の古医書『黄帝内経(こうていだいけい)』には、食べ物は薬と同じように健康にとって大切なものだという「薬食一如」、「薬食同源」という考えが記載されています。
食事と薬の源は同じ、すなわち「食べ物は薬と同じように体に作用する」という食養法です。
西洋医学の祖のヒポクラテスも、「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」と述べています。
東西文化は異なっても、健やかな生活をおくるうえで最も大切なのは食養で、健康は食事からという考えは人類同じなのです。
「食は薬なり」
漢方医学では、食べられるものは全て薬です。
病気のときに毎日続けて食用あるいは飲用しても安心。特に慢性の病気を予防または治療する場合は最も適切です。
例えば、生薬の「生姜(しょうきょう)」はショウガのことで、発汗や解熱作用、体を温める働きがあり、山芋は、「山薬(さんやく)」と呼ばれ、滋養強壮に効果があります。
2013年、日本食(和食)がユネスコの無形文化遺産に登録されました。
長い歴史の中で日本人が培ってきた、野菜や穀物を主とした食に関する社会的慣習が評価されました。
このように日常生活において、栄養のバランスの取れた食事を基本にして、これに健康によい食べ物を組み合わせることで、体と心の健康を保つ、あるいは病気を予防して治すことができます。
美と健康をつくる8つの身近な食材のパワー
では具体的に、食べて美しく健康に近付く食べ物は何でしょう?
たくさんある中でも、積極的に摂って欲しい身近にある8つの食べ物と、その薬効ポイントを紹介します。
①『ショウガ』は炎症を抑える
ショウガは熱帯アジア原産と言われ、インドや中国では紀元前から食用または医薬品として利用されてきました。日本に伝わったのは2〜3世紀のころです。
生のショウガに含まれる辛み成分の「ジンゲロール」は胃腸の働きを活性化するので、吐き気やむかつきなどにも有効です。すりおろしたショウガに湯を注いだものを飲むだけで、妊婦さんのつわりにも良いようです。
ショウガを乾燥させると成分の脱水反応が起こり、ジンゲロールが「ショウガオール」に変わります。
辛味が強いショウガオールには胃痛や腰痛、関節炎などを抑える作用があります。
体内で痛みの原因となる成分の生合成を阻害し、血小板が固まるのを抑制したり、血管を拡張させたり、さらには鎮静作用があることが明らかになっています。その効果は、鎮痛薬のアスピリンを超えると言われています。
ショウガは冷えの解消にも大変優れています。血行促進作用がある辛み成分には代謝を高める働きがあり、体を温めます。
【乾燥ショウガを作ってみよう】
よく洗ったショウガを皮付きのまま薄切りにして、天日に干すだけです。
カリカリに乾いたショウガは飲み物や煮込み料理に手軽に使えます。
ミルで細かくしてショウガ粉にしても良いでしょう。
蒸してから干すとやわらかく仕上がり、そのまま食べられます。これは「乾姜(かんきょう)」と呼ばれ、加熱処理によりジンゲロールが「ジンゲロン」に変化して辛味が緩和されるためです。胃腸の冷えからくる腹痛や下痢に有効です。
②『タマネギ』は特効薬
タマネギを切ったときに目に染みるのは、「硫化アリル(アリシン)」という成分が含まれるためで、血液をサラサラにしてくれる働きがあります。
高血圧、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞などにも効果があり、血糖値の上昇を抑える働きもあるので、中性脂肪やコレステロールが高い人、糖尿病の予防にも良い食材です。
生タマネギのスライスを食べるのがブームになっていますが、硫化アリルは水溶性の成分なので水に晒さないことが重要です。味噌汁の具材などとして加熱しても、その成分は壊れないと言われていますから、汁ごと食べることがポイントです。
漢方としては、胃腸を温めて気の流れを良くする効能があるので消化を促進します。さらに利尿作用もあり、むくみに有効とされています。
茶色の皮の部分にはポリフェノールの「ケルセチン」が多く含まれていて、その量は内部の20〜30倍にもなります。ケルセチンには、抗酸化、脂質代謝改善、抗がん作用などが認められ、動脈硬化や糖尿病、骨粗しょう症などの予防が期待されています。
近年、外皮エキスは健康食品として商品化されていますが、タマネギの皮5~10gを煎じてお茶のようにして1日3回、食前または食間(食事と次の食事の間の空腹時間)に飲むと、高血圧や動脈硬化の予防に役立ちます。
③『海藻』でお腹も頭もすっきり
海に囲まれた日本に住む私たちは、昔から海藻の恵みをいただいてきました。海藻を多く食べる日本人と、あまり食べない欧米人との乳がんによる死亡者数を比べると、大きな違いがあるというデータがあります。
海藻類に豊富に含まれる食物繊維は水溶性の「フコイダン」や「アルギン酸」で、どちらもヌルヌルした粘り成分です。
保水性があるので、水を吸収して膨らむと胃の満腹感が得られます。コレステロールや糖分を包み込むようにして、栄養分の吸収を阻害する働きがあるので、食後の血糖値の急な跳ね上がり(血糖値スパイク)を抑え、血中コレステロールを減少させる効果があります。そのため、がん発症因子の一つと考えられる脂質のコントロールに有効です。
また、食物繊維の一部は腸内細菌のエサとなって善玉菌の増加につながりますし、腸を刺激して便通を整える働きもあります。
昆布にはうま味成分の「グルタミン酸」が含まれます。うま味を活かして料理を薄味に仕上げれば、塩分の過剰摂取を抑えるメリットもあります。グルタミン酸には認知症の予防や記憶力の向上効果もあると期待されています。
④『ブドウ』でアンチエイジング
眼精疲労に有効であることが知られている「アントシアニン」は、赤や紫の色素成分であり、黒や赤いブドウの皮に含まれています。
同じく果皮にふくまれている「レスベラトロール」は生体防御物質で、抗炎症、抗発がん、抗肥満作用があると言われている話題の成分です。長寿遺伝子との関連も指摘され、アンチエイジング効果が期待されています。ブドウを生で食べる場合は、皮ごと食べられる品種を選びましょう。
種子に含まれる「オリゴメリックプロアントシアニジン(OPC)」は特に抗酸化力が高く、細胞レベルで酸化を防ぐため、動脈硬化をはじめとする生活習慣病全般の予防に最適です。
また、もろくなった血管壁を強化する働きもあり、むくみや静脈瘤、糖尿性網膜症にも有効というデータもあります。
これらの成分が凝縮して含まれている赤ワインは、アルコールのもたらすリラックス効果も相まって、ついついグラスを重ねてしまうところですが、飲み過ぎは逆効果。適量は1日1〜2杯です。
また、干しぶどうは「カルシウム」や「マグネシウム」が非常に多く、ミネラル源としては優秀ですが、糖質も多く、生果の5倍量となっています。
漢方では気や血を補う食べ物とされ、疲労回復やがん・動脈硬化の予防などに食されます。
⑤ブロッコリーの抗酸化力
ブロッコリーの色素成分は「β-カロテン」です。β-カロテンは体内でビタミンAに変わるので、ビタミンA前駆体と呼ばれます。
ビタミンAは抗酸化ビタミンの一つで、がん予防効果があるほか、皮膚や粘膜の保護や発育の促進作用があり、感染症予防や肌荒れの改善、髪の健康維持、疲れ目の予防などの効果が期待できます。
ブロッコリーには、免疫力を高め、健康な肌づくりや風邪予防に効果のある「ビタミンC」も含まれます。
また、同じアブラナ科野菜のケールやコマツナにも含まれる辛み成分の一種「スルフォラファン」は、抗酸化・抗炎症作用などがあり、さまざまな病気の予防・改善への効果が期待されています。
例えば、高血糖による血管損傷の改善、糖尿病合併症の予防、肝臓の機能改善など、数々の効果が認められています。
このようにブロッコリーには、複数の抗酸化成分が含まれているため、相乗効果によってパワフルな作用が期待できます。
私たちが食べているのはブロッコリーのつぼみと花茎の部分ですが、β-カロテンは脂溶性でビタミンCは水溶性なので、さっと塩ゆでにしてマヨネーズをつけて食べることは、栄養面でも理にかなっています。茎は太い部分まで食べましょう。
また野菜のスプラウトの中でも「ブロッコリースプラウト」は、ビタミンA、C、Kなどを豊富に含むほかに、スルフォラファンの含有量も優れています。
⑥『キノコ』は健康寿命を延ばす
昔から薬膳では、キノコ類はさまざまな症状に使われてきました。
キノコ類には血液をサラサラにし、血中コレステロール値を下げるほか、免疫力をアップして感染症やがんを予防することでも知られています。
それらの効能のもととなっているのは「β-グルカン」という成分です。β-グルカンは大麦やパン酵母、キノコ類などに含まれる多糖類群で、その高い健康効果は世界中から注目されています。
シイタケはミネラルやビタミンのほか、「食物繊維」や「酵素」が含まれています。また、シイタケ特有の成分である「エリタデニン」は、LDLコレステロールを減少させる働きがあるため、動脈硬化や高血圧の予防効果があります。
キクラゲには血液凝固抑制作用が、エノキダケには免疫力を高めてウイルスや腫瘍を予防する効果、シメジにも抗腫瘍作用があるなど、まさにキノコは効能の宝庫ともいえる食材です。
特に、マイタケに含まれるβ-グルカンには強力な抗腫瘍作用があり、これを「MDフラクション」と呼んでいます。近年、MDフラクションは免疫療法にも用いられています。水溶性なので、調理した場合は汁ごと飲むと良いでしょう。なお、マイタケにはタンパク質分解酵素が含まれるため、茶碗蒸しに加えると固まらなくなってしまいます。
また、キノコ類は干したり冷凍したりすることでビタミンD、カルシウム、カリウム、タンパク質が増加するといわれています。冷凍すると細胞組織が破壊されるため、うま味成分が抽出しやすくなります。
⑦『ヨーグルト』で腸とメンタルをケア
ヨーグルトは多くの効能を持った食品で、特に消化器系の働きを活性化する性質があります。
腸内細菌が正常なバランスを回復できるように働くのが、ヨーグルトの乳酸菌です。ヨーグルトに含まれる生きた菌とその代謝物は、腸管の中で天然の抗生物質を放出します。そのいくつかは大変強い殺菌力を持つことがわかっています。
「トリプトファン」が豊富なため、セロトニンの合成を促し、精神を安定させ不眠やうつ病を予防する効果があるとも考えられています。
さらにヨーグルトには、殺菌、腸の感染の予防や治癒、血中コレステロール値の減少、免疫力アップ、抗潰瘍、抗がんなど、実に多くの作用があるとされます。
ヨーグルトの種類によって含まれる乳酸菌の種類が異なります。腸内の常在菌には個人差があるため、食べ続けて自分のお腹の調子が良いヨーグルトを選び、毎日続けると良いでしょう。
ところで、日本の乳製品の歴史は意外にも古く、初めて伝わったのは奈良時代はじめのことです。今でいうヨーグルトは「醍醐(だいご)」と呼ばれ、珍重されました。醍醐とは仏の教えで最上を意味する言葉です。
日本人には乳製品に含まれる糖を分解する酵素を持たない乳糖不耐性の人が多いといわれています。
乳糖不耐性の人が牛乳を飲むとお腹を下すことがあるのですが、ヨーグルトは乳酸菌が乳糖を分解しているためその心配もありません。
⑧『はちみつ』の抗菌・殺菌パワー
古代エジプト人にとって、ハチミツは薬として日常的によく使われるものでした。
現代の日本でも、食品としてだけでなく医薬品としても販売されています。
その効能は、栄養剤、甘味料、口唇の亀裂・荒れの改善など。ただし薬効が期待できるのは、天然の純粋ハチミツに限ります。
ハチミツの甘さは、単糖のブドウ糖と果糖によるもので、体に吸収されやすくて効率良くエネルギーになります。また、天然のビタミン剤とも呼ばれ、ビタミンC、B類、K、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、コリンなどを少量でも体に良く効く活性型のビタミンとして摂取することができます。
口唇の亀裂・荒れに効くのは、そのまま患部に塗ると抗菌・殺菌作用があるためです。
強力な殺菌パワーの理由は、高濃度の糖分が細菌内部の水分を減らして増殖を抑えることや、含まれる過酸化水素が強い殺菌力を発揮するからです。
さらに、虫歯の予防にも役立ちます。虫歯をつくるミュータンス菌の好物はショ糖で、ハチミツのブドウ糖や果糖ではないからです。ミュータンス菌の活動を抑え、歯周病を予防し、口臭を防ぐ働きもあることから歯みがき剤の成分としても利用されています。
ハチミツのカロリーは砂糖の約3/4、甘さは約1.5倍なので、同じ甘さで比較すると砂糖の約60%のカロリーです。健康的な甘味料としても上手に使いたいですね。
いかがでしたか?手軽に買える食材に意外な効能がありますよね。
「人は食べた物からできている」という言葉があるように、あなたが普段口にしているものが健康な心と体を作り上げます。
旬の新鮮な食べ物をバランスよく食べることが大切ですが、慢性的な不調を感じているなら、今回紹介した食材を意識して取り入れてみてはいかがでしょうか。