【Book review】生まれた時からアルデンテ

CULTURE

2025.11.14

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すぐれた食べ物の描写は良き思い出と同時に心の底にある澱も浮かびあがらせる

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『生まれた時からアルデンテ

一瞬だからこそ美味しくて美しい。腐るって優しい。

平野語の世界にようこそ。同調したい人増殖中!

 

著    者:平野紗季子

出版社:  文春文庫

定    価:880円(税込)

 

「気軽に読めてしまいそうだなぁ」と、手にしたとき思い、読み始めたところ、確かにスラスラ読めたものの、後で見返そうと気になる箇所に付せんがいっぱいついて驚きました。

単純に読む時間よりも気づきや余韻に多くの時間が費やされたということですね。

読書好きの友人がイチオシしてくれただけのことはあります。一行だけの標語のようなエッセイもありますが、どれも鋭くて奥が深い!
当代気鋭のシェフの創作料理と子どもが買える駄菓子を並べて論じられるなんて‼ 20代前半でこんな文章が書けるなんて‼! (すごい、のビックリマークが、星を争うかつての料理番組のように、3つもついてしまった)。

こんな提案はなんですが……どのページでもいいので、開いたところの文章を味わえば、たちまち虜になってしまうこと間違いありません(「食べなければわからない」ということ・笑)。

解説の青山学院大学文学部教授・三浦哲哉(みうらてつや)氏も大絶賛。おいしさの「一瞬」の輝きと真摯に向き合い、それを言葉で光らせる、目次に並んだ大小のお話のひとつ、ひとつが夜空のキラ星のようです。

 

 

 

【本書のあらすじ】

 

文庫本には――すべての幸福は食から始まる。

世界一のレストランの殺気に満ちた食事に、味に表情がある学食のカレー。平和なフルーツサンド界を脅かす圧倒的存在や、想像力を逞しくさせる嫌いな味。

スーパーマーケットの目を引く陳列に、真剣勝負のメニューなど、愛と希望と欲に満ちた、ミレニアム世代の傑作味覚エッセイ。――とあります。

 

 

【著者について】

 

文庫本の著者紹介によりますと――平野紗季子(ひらの さきこ)氏は1991年福岡県生まれ。

フードエッセイスト。小学生の頃から食日記をつけ続け、慶應義塾大学在学中に日々の食生活を綴ったブログが話題となり、文筆活動をスタート。雑誌等で多数連載を持つほか、ラジオ・Podcastのパーソナリティやテレビ番組への出演、菓子ブランド「(NO)RAISIN SANDWICH」の代表を務めるなど、精力的に食にまつわる発信・企画を行っている。

著書に『私は散歩とごはんが好き(犬かよ)。』『味な店 完全版』――となります。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

料理の基本は、最大に美味しくなる「瞬間」を見逃さないこと。

口では間に合わないので弟子にはつい手が出てしまう(そのタイミングは体で覚えるしかないということかな・苦笑)と高名なシェフから聞いたことがあります。

本の題名にパスタのアルデンテの状態を選んだのは著者の感性の鋭さが上手に表されているなぁ、と思います。
それと表現の豊かさを併せ持っているところが著者の魅力ですよね。「冷蔵庫、いつもは真っ暗なんだと思うと寂しい、寒いし」とか「残飯はさっきまでごちそうだった」とか、あたり前のことをを取りあげているのに、なぜか心にビビッと来ます。

「食べ物は消えてしまう」から「食べ物を消さないために自分の心がしっかりしてなくちゃと思う。そしたらちゃんと残る」に、そだねぇとうなずき、「50年前のスパゲティを食べることができない」から「本を読む。知らない過去は未来なんだ」に同調して、紹介されている本はすべて読んでしまおうと著者にすっかりシンクロしてしまった私です。

読書好きの友人は『のさばるレモン考』に揺さぶられていました(巻末の解説文でも称賛)。