【Book review】風味絶佳
CULTURE
2025.07.13
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脳のエネルギー源は「ブドウ糖」。
甘いものを欲するのは疲れた脳が出すサイン。
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『風味絶佳』
平凡な毎日で、すれ違うかもしれない人間の風味を味わう。
滋養あふれる言葉の数々が疲れた心を癒してくれます
著 者:山田詠美
出版社: 文春文庫
定 価:682円(税込)
今年のはじめに、同じ著者の雑誌の連載コラムをまとめた『吉祥寺ドリーミン』を紹介しましたが、今回の読書のシバリを「甘味」に求めたところ、読書好きの友人が勧めてくれたのが、この銘菓ならぬ名著です。
アマゾンの紹介文には――作家生活20周年におくる、恋愛小説の最高傑作。
「甘くとろけるもんは女の子だけじゃないんだから」。
恋の妙味を描く珠玉の6篇。
20年目のマイルストーン的作品集。谷崎賞受賞作――とあります。
キャラメルが印象的な装丁は野中深雪氏のデザイン。色味も「風味絶佳」という言葉も森永製菓のミルクキャラメルから来ているのですね。
6篇の短編小説をキャラメルに例えているわけですが、一粒一粒(一篇一篇)が、とても日本語として「滋養豊富」。むざむざと一度に口に含んで(読んで)しまっては、ありがたみが薄れてしまいます。
そこで解説の高橋源一郎氏にならい、じっくり味わいながら、一日一粒(一篇)を目安にいただきましょう。
【本書のあらすじ】
本書に収められている小説の題名は、「間食」「夕餉」「風味絶佳」「海の庭」「アトリエ」「春眠」と当たり前ながら、どれも意味深。
文庫本のカバーには「風味絶佳」の内容紹介として「70歳の今も真っ赤なカマロを走らせるグランマは、ガスステイションで働く孫の志郎の、ままならない恋の行方を静かに見つめる」とあります。
それぞれの作品に登場する男性の職業は順に「鳶(とび)職」「清掃作業員」「ガソリンスタンドのアルバイト」「引っ越し作業員」「汚水槽の作業員」「火葬場の職員」といわゆるガテン系。
日常を舞台にした物語だけれど、自分にはありえない出来事と思っていることがおこりえるかもしれない、というリアリティを生み出します。
あとがきに「職人の域に踏み込もうとする人々から滲む風味を私だけの言葉で小説世界に埋め込みたいと願った」とあります。
【著者について】
文語本のカバーから引用しますと(一部略)――山田 詠美(やまだ えいみ)氏は1959年東京都生まれ。
85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞を受賞し鮮烈にデビュー。
同作品は芥川賞候補にもなる。先鋭的な作品を発表し続け、87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室 』で平林たい子賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花賞と、文学賞を次々と受賞。
その後も現代文学の旗手として旺盛な執筆活動を続け、2001年には『A2Z』で読売文学賞、05年本作『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞を受賞――とあり著者もたくさん。
また、アマゾンの著者紹介には、明治大学文学部中退。との記載も。
【レビュー&エピソード】
とにかく日本語がすてきすぎ!
こんな風に表現できるのかと感嘆。また、職人の仕事の取材も入念で小説によく溶け込んでいます。
単行本による初出は2005年5月。
翌年には映画化(題名は「シュガー&スパイス 風味絶佳」)され、主人公の志郎を柳楽優弥、恋人の乃里子は沢尻エリカ、そしてグランマは夏木マリが演じています。
今なら主人公は朝ドラ「あんぱん」の頼りなさげな演技で魅せる北村匠海かな?
2008年5月には文庫本化されています。キャラメルの代わりにポケットにいかがですか(笑)