【Book review】絶唱

CULTURE

2024.04.05

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恋と生きる道の迷いは旅の道先で解決されるのかもしれません

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『絶唱

南洋の楽園に集まった人達は皆、悩みを抱えていて…… 

災害からの復興のように人生をやり直す恋もあります

 

著    者: 湊 かなえ

出版社:新潮文庫

定    価: 737円(税込)

 

 

元日(2024年)を襲った能登半島地震。

3ヶ月経っても避難所暮らしを強いられている住人がまだ大勢います。水がまだ出ない地域もあって、そのニュースのなかでは婦人たちが洗濯や入浴の不便さを訴えます。

不便さの背景には女性ならではのプライバシーに関する悩みもあり、インフラの復旧を急ぐとともに、ストレスを抱えている被災者の心の回復も急務となります。

ただ不満を声にしたくてもできない人もいます。そのような人達の心情を察することができるかもしれない本書の一読は、いかがでしょうか。著者の心の声の描写に私の心は引き寄せられました。

 

 

【本書のあらすじ】

 

文庫本のカバーにあるあらすじには――

「五歳のとき双子の妹・毬絵は死んだ。生き残ったのは姉の雪絵――。奪われた人生を取り戻すため、わたしは今、あの場所に向かう(「楽園」)。

思い出すのはいつも、最後に見たあの人の顔、取り消せない自分の言葉、守れなかった小さな命。あの日に今も、囚われている(「約束」)。誰にも言えない秘密を抱え、四人が辿りついた南洋の島。ここからまた、物語は動き始める。喪失と再生を描く号泣ミステリー。」――とあります。

 

 

【著者について】

 

湊(みなと) かなえ氏は1973年、広島県生まれ。

2007年、「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。翌‘08年、同作を収録する『告白』が発行され、翌‘09年に本屋大賞を受賞。‘16年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。‘18年『贖罪』がエドガー賞候補となる。著書多数。――文庫本の著者紹介より(一部抜粋)。

松たか子主演で‘10年に映画化された『告白』(監督&脚本・中島哲也、企画・川村元気)は第34回日本アカデミー賞では4冠を達成し、興行収入成績で第7位(38.5億)と大ヒット。

文庫本になった『告白』は124刷で300万部突破と驚異の記録を続けています。

 

 

【舞台&背景】

 

舞台となるのは南太平洋の島・トンガ王国。

その楽園を訪れる日本からの旅行客と受け入れ先のゲストハウスのオーナー(日本人女性)が4つの物語で絡み合います。それぞれの話のなかの主人公が旅先にトンガを選んだ共通するある理由があります。その理由が明らかになると、舞台は日本のある時間、ある場所へと過去に遡ります。

そしてその理由は別の時間、別の場所でも、同じように起こるかもしれません――ミステリーのジャンルなので、その理由は読んでからのお楽しみに(笑)。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

「イヤミス(イヤな気持ちにさせるミステリー」の名手と言われる著者。きれいごとではすまされないことが世の中には多いということですね。

本書では弱者の本音や劣等感をこれでもかと汲みつくそうとします。読後感は(イヤではなく逆に)さわやか。主人公達の明日への希望が感じられたからです。

四話とも完結の形ですが、登場人物が重なっているので、読み進めていると、「こんなふうにつながるのか」という驚きと、同じ状況下でも「視点が変わるとこう感じるのか」という発見が得られます。

また、トンガへの著者の思いにも理由があるようで――それもミステリーとして、種あかしは本書の解説で(笑)。