【Book review】クリスマス・キャロル

CULTURE

2023.12.08

 

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読書もクリスマスの行事のひとつです

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『クリスマス・キャロル』

クリスマスの日だけではありません

情けや親切がある限りこの物語は不滅です

 

著    者:チャールズ・ディケンズ(訳 池 央耿)

出版社:光文社古典新訳文庫

定    価: 528円(税込)

 

[キャロル(Carol)]とは「祝歌」のこと。

題名から直球でズバリと、クリスマスを祝うこの物語は180年前の創刊以来クリスマスに読む本としては最も相応しいと言えましょう。

さて、古典中の古典、名作中の名作なのですが、恥ずかしながらワタクシ、ディズニーのアニメでしか、この物語は認知できていませんでした(汗)。

マクダックがスクルージ、ドナルドが甥のフレッド、ミッキーが助手のボブ・クラチット、グーフィ―がマーリーに扮するアレ(笑)です。

はじめて本書を読んで、お話の良さもさることながら、ディズニー作品の良さに改めて感じ入りました。

ところで、この物語はいくつかの出版社から翻訳本が出ています。短いお話なので、読み比べてみたところ、新訳とあって文章の表現が伝わりやすかった光文社版の文庫を、ここでご紹介します。

 

 

【本書のあらすじ】

 

並はずれた守銭奴で知られるスクルージは、クリスマス・イヴにかつての盟友で亡きマーリーの亡霊と対面する。

マーリーの予言通りに3人の精霊に導かれて、自らの辛い過去と対面し、クリスマスを祝う、貧しく心清らかな人々の姿を見せられる。そして最後に自分の未来を知ることに――光文社のH.P.より。

上記のディズニー作品を挙げるまでもなく、古今東西、いろいろな形でこの物語は世間に広く認知されてきたので、細かなあらすじは不要かと思いますが、精霊が主人公に何かしらの示唆を与えるというプロット(構想)は、神話の時代からおなじみといえましょう。

そして日本には八百万の神が(例えばトイレにも)、さらにはトトロもいますからね(笑)。

 

 

 

【著者について】

 

フルネームはチャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ。

1812年にイギリスで生まれ、58歳で亡くなっています。新聞記者を経て作家活動に入りました。

英国の国民的文豪と称され、1992年~2003年まで用いられた10UKポンド紙幣に肖像画が描かれたほど。主に下層階級を主人公とし弱者の視点で社会を諷刺した作品を発表しました。

代表作としては、1843年発行の本著作のほか、‘38年『オリバー・ツイスト』、‘50年『ディヴィッド・コパフィールド』、‘59年『二都物語』’61年『大いなる遺産』などがあります。

 

 

【舞台&背景】

 

刊行年である1843年のイギリス・ロンドンを舞台にしてミュージカルや実写映画が繰り広げられます。

但し、小説のなかには「スクルージ・アンド・マーリー商会」の所在地に関する具体的な表記はありません……。

物語は現代にも通じ研究にも値する有名な古典とあって、文庫では訳者の池 央耿(いけひろあき)氏の[解説]も十分。

さらに、新訳にあたっての[あとがき]も用意されています。著者の年譜も克明で、ディケンズの生涯がよく伝わってきます。本書の解説によると、ディケンズが作家の地歩を固めたのはヴィクトリア女王の時代。

女王の治世は64年に及び、イギリスは世界商工業の頂点にたって大いに国威を発揮し、一般に黄金時代と呼ばれました。ただ同時に、格差も広がり、大飢饉が続発した1840年代は都市人口の三分の一が赤貧に喘いだ状況にあったとか。

そういう(人々が上下の隔てなくクリスマスを喜びあうことが難しい)世相を背景に本書はヒット(発売1週間で5000部という当時としては異例の売れ行き)。そして読者の関心は、ボブ・クラチットの家族に集まりました。

生活苦と闘いながらも貧して鈍さず、親子兄弟が結束して、互いを思い遣る家族の姿に励まされ、希望を見出した庶民は、少なくなかったのです。

感謝の手紙が、あちこちからディケンズのもとに寄せられました。著者が、忍耐、寛容、献身、和合……すべてを超えて行き着くところに善意を謳うクリスマス精神を終生のテーマに置いたのは、彼の生い立ちが影響しているからにほかなりません。

それは年譜をみれば、家計を支えるため12歳で働きに出るなど、苦労を重ねていたことでわかります。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

私にとって、ディズニーのクリスマス・キャロルが原点ですから、物語のなかで有名な精霊が見せてくれるボブ・クラチット家族のクリスマスや、その後の不幸な出来事のシーンなどは、読みながらミッキーとミニー、そして子役のちびっこマウスたちがアニメとして頭に蘇りました。

実写映画も何本もありますが、やはりディズニーがいちばんです(笑)。

さて、この小説が歴史的な名著になるつれ、スクルージ(scrooge)は「守銭奴」の意味で英和辞書にも載るようになりました。しかし、訳者は[あとがき]でこのように擁護しています。「スクルージは断じて悪人ではない。

もとより悪心のかけらもなく、不正は働かず、廉潔一途がスクルージの身上である」更に、「私利私欲は頭にない証拠に、金にあかして贅沢をするでもない。金を稼ぐのは、ひたすら、まっとうに、生真面目に働くことを天職と心得ているからである」……と誉め言葉が続きます。

きっとスクルージは生き方が不器用なだけなんですよね。180年経ても、主人公の魅力が尽きないのはスゴイことです。ディケンズの人物設定のうまさが光ります。