【Book review】おちくぼ姫
CULTURE
2023.07.15
🎀本って、やっぱり自分へのご褒美なんだと思います。🎀
『おちくぼ姫』
※カバーの絵柄は(株)かまわぬのてぬぐい柄を使用しています。
現代でもありそうな継母のいじめに耐えぬいた姫君には
すてきなご褒美が待っていました
著 者: 田辺 聖子
出版社:KADOKAWA/角川文庫
定 価: 484円(税込)
全国の書店員がいちばん売りたい本を投票で決める2023年本屋大賞の『発掘部門』で選ばれた「超発掘本!」が本書です。
てぬぐい柄のカバーが町の雰囲気に似合う、人形町の文教堂で購入。
その後、老舗のお蕎麦屋さんにて、箸を進めつつ頁をめくりながら、休日の昼下がりの食事と読書を楽しみました。
【本書のあらすじ】
高貴な生まれにもかかわらず、意地悪な継母に縫物ばかりさせられている貴族の姫君。
落ちくぼんだ部屋にひとりぼっちで暮らす彼女は、邸(やしき)の者からも「おちくぼ」と呼ばれていた……。そんなある日、都でも評判の貴公子が姫君の噂を聞きつけて求婚!
熱心な貴公子に姫君の心も動かされるものの、さまざまな問題が立ちはだかる。はたして二人の恋の行方は……?
若い読者のために現代訳された、田辺流「王朝版シンデレラ」!(文庫本のカバーより)
1990年5月が初版。でも、シンデレラと大きく異なっているのは、キーパーソンとなる魔法使いが登場しないこと。
おちくぼの姫君は美人で性格もすこぶるよいのですが、ただ継母の言いつけにしたがって嘆いているだけ。その代わり、姫君に仕える女性“阿漕(アコギ)“が大活躍します。
「アコギな商売」とか使われるように「強欲でしつこいさま」を現わす言葉ですが、それくらい姫の幸せを願い懸命に仕えているということ。
とても聡明で活発です。当時のお妃候補の年齢で考えると現代では高校生の年齢。現代なら、このお話は青春恋愛小説でもあり“阿漕ちゃん”が家庭内暴力を受けている親友を助ける痛快なお話と解釈することもできます。
紀元前から継母によるいじめの物話はあったとか。幾年月重ねても、変わりがないテーマだとしたら、最後に継母をぎゃふんと言わせて溜飲をさげるお話の魅力も尽きないということになるのでしょうねぇ。
【著者について】
田辺聖子(たなべ せいこ)氏は1928年大阪生まれ。
樟蔭女子専門学校国文科卒。64年『感傷旅行』で第50回の芥川賞を受賞。
87年『花衣ぬぐやまつわる……わが愛の杉田久女』で女流文学賞、
93年『ひねくれ一茶』で吉川英治文学賞、98年『道頓堀の雨に別れて以来なり』で泉鏡花文学賞と99年には同作品で読売文学賞も受賞。
2003年『姥ざかり花の旅笠』で蓮如賞と受賞作品多数。08年には文化勲章を授与されました。
2019年6月に胆管炎のため91歳でお亡くなりになっています。
【舞台&背景】
舞台は「鳴くよ(794年)うぐいす」で始まる平安京の時代。1000年以上も前のお話です。
もとは「落窪物語(著者不明)」という古典を田辺聖子氏が現代語に訳して(変更点も加えて)改題、たいへん面白い本に仕上げてくれました。
それにしても、ディズニーのアニメにもなっているペロー版のシンデレラ(和訳では「灰かぶり姫」)はフランスのルイ14世時代(1638年~1715年)に出版。
シンデレラの例えで紹介されるより、日本では、はるか以前からシンデレラと同様の話が成立し、楽しまれていたことに注目したいと思います。
ところで、通信や交通のインフラが高度に発達した現代の環境と過去の時代とを比べると、今の私たちが一日に受け取る情報量は、牛車の移動速度で物事を進めていた平安時代の人たちの一生分と聞いたことがあります。
情報の加速化はいまもって進行形。そのうち1時間で平安の世の人たち一生分の記録やら思い出を受け取らせてしまうようになってしまうのかもしれません。
でも、それはあまりに慌ただしくて膨大のようにも……例えれば情報が津波となって襲ってくるようにも感じられませんか?
私たちの頭の中や感情が破綻しなければいいのですけれど……。
そして、いちばん大切な恋愛に関する情報も即時に流されていく現代。平安時代の恋人たちのほうが豊かな恋愛をしているようにも思えます。恋の気持ちを和歌に込め、行き交いする恋文をいまかいまかと待ちわびる……待ちわびたぶん大きな愛を作っている気がするのです。
そんな恋人たちの姿に憧れを感じる現代人も多いのではないのでしょうか。
一生かけて寄り添う二人の結婚の思い出が一日で流されてしまっては寂しいですよね。
【レビュー&エピソード】
Kindleでも読めることを後で知りましたが、雅な古典の王朝文学には、やはり紙の本が相応しいと思います。凝った柄のカバーの手触りとか紙とインクの香りとか、完成された作品として五感で楽しむ感じがいいですよね。
頭の中では1000年以上前の世界が広がります。昼食をとりながら独りの読書でしたが、友人とのランチ会をしているような気分に。
登場人物の会話がとても生き生きとしていて、古典の王朝の暮らしが目の前で繰り広げられているように伝わってきたのです。これはひとえに作者のチカラということなのでしょう。
ところで食事をしながらの読書で書店の紙カバーを汚してしまったことはご愛敬(そんな時用の書店さんのサービスですものね・笑)。