【Book review】書店ガール

CULTURE

2023.06.01

 

🌼心の息が詰まったら、息抜きに読書と散歩を加えてみませんか🌼

 

『書店ガール』

書店って面白いなぁ、と思えて元気が出ます。

散歩のコースに本屋さんを入れましょう!

 

著    者: 碧野 圭

出版社:PHP研究所(レーベル:PHP文芸文庫)

定    価:775円(税込)

 

新宿駅上の小田急百貨店が再開発で解体されている4月第1週の平日の昼下がり、となりの京王百貨店の7階にある丸善のレジ前で本書を見かけました。

PHP文芸文庫の四字熟語フェアのコーナーがあって「起死回生」のダブルカバーがかけてあります。

3月の終わりに八重洲ブックセンターの閉館をお見送りしたばかりでもあり、その四字熟語が私の心にチクリと刺さりました。購入後、2階うえの屋上のベンチに腰かけ、観賞魚コーナーの水槽の熱帯魚を時折、愛でながら一気読み。

(百貨店の関係者様はご不満かとは思いますが)地上の新宿の雑踏とは、はなはだ異なる閑散とした広々な空間を独り占めするように読書に没頭できました(満足満足、あぁ幸せ)。

 

 

【本書のあらすじ】

 

文庫本のカバーの裏表紙にこんな紹介文があります。「……書店のアラフォー副店長理子は、はねっかえりの部下亜紀の扱いに手を焼いていた。協調性がなく、恋愛も自由奔放。

仕事でも好き勝手な提案ばかり。一方の亜紀も、ダメ出しばかりする「頭の固い上司」の理子に猛反発。そんなある日、店にとんでもない危機が……。」お話はいわゆる相棒(バディ)ものです。

PHP学芸文庫のH.Pには、著者のコメントとして「(前略)性格も考え方も違うふたりが困難な状況に追い込まれ、仕方なく協力して困難に立ち向かううちに、互いの能力を認め合うようになる物語」とあり「なぜ女性が主人公にならないのか。(中略)女性の社会的な地位についての評価は曖昧なのだ」とも。

そして「女性がいなければ立ちいかない業界もある。そういうところでは、女性の力量が試されるし、女性であるがゆえの熱いドラマも生まれるであろう」とあります。
書店が舞台となったのは、20年ほど出版業界にいて書店業界とも密接な著者の履歴からもわかります。「何より私は書店が好きなのである」と明言もされています。

 

 

【著者について】

 

碧野 圭(あおの けい)氏は1959年生まれで愛知県出身。東京学芸大学教育学部卒業。

フリーライター、出版社で編集者稼業ののち、2006年『辞めない理由』で作家デビュー。2007年には『ブックストア・ウォーズ』を新潮社より刊行(その後2012年にPHP文芸文庫にて『書店ガール』と改題)。『書店ガール』はシリーズ化され、2作目からは当初より文庫本での書き下ろしとして10年かけ、全7巻にて終了。『書店ガール3』は静岡書店大賞の「映像化したい文庫部門」大賞を受賞し、実際に2015年には「戦う! 書店ガール」としてフジテレビ系列で連続ドラマ化されました。

 

 

 

【舞台&背景】

舞台はかつて都下随一と言われた300坪の老舗書店。住みたい街ナンバーワンが常連の東京・吉祥寺にあります。

登場人物たちの住まいや行動範囲もほぼその周辺と考えていいでしょう。モデルとなったお店の想像も楽しめるので吉祥寺散歩のお供に良いのかも。
出版科学研究所調べによると、1990年代後半以降、書店の大型化が始まり(八重洲ブックセンターの設立は1977年)、本書のシリーズが始まった2012年は、全国の書店のうちで1,000坪以上が85店(2015年には94店)となり、書店の大型化で街の本屋さんが淘汰される時代が背景となっています。

書店数の推移は、現在も減少を続け2003年の2万880店から‘22年には1万1,495店と半数近くに至っています。
街の本屋さんが減ったぶん平均坪数が増えてはいるものの、雑誌と本の売上げは1996年の2兆6564億円をピークに2021年には1兆2080億(+電子書籍464億)となり、市場規模も、ほぼ半減しています。

そんな厳しい背景があるからこそ「女性の力量が試されるし、女性であるがゆえの熱いドラマも生まれる……〈PHP文芸文庫のH.P作者のコメント〉」と7巻まで続いたのでしょう。

 

 

 

【レビュー&エピソード】

 

チーム全員に「友情」が生まれ、そして深まり、皆で「努力」して「勝利」する。
団体競技のスポーツ物語では定番の流れが本書にもあります。冒頭、結婚式の2次会から始まるのですが、登場人物の家庭事情に始まり、ややこしい人間関係に恋愛感情の説明もあって、ややもたつく感じ。でも、その説明が必要なほど、裏事情があって複雑なのです。

書店に働く人たちも正社員、契約社員、アルバイトとさまざま。出入りする人も版元、取次そして大切なお客様と描く場面も当然多くなります。
ところが、中盤から後半にかけて、悪代官と称する書店本部の悪役が登場してから一気に加速。

たくさんの登場人物が一致団結して、悪代官に立ち向かい、難問を解決しながら、お客様にも喜んでもらい、目標にしていた売上げを達成します(すかっとスッキリ)。

 

ただ目標は達成したものの、最終的な夢は叶いませんでした。でも、それは2巻につなげるお楽しみに……。
上述のH.Pのコメントに「『書店って面白いな。書店に行ってみようかな』と思ってくださる方がいれば、作者としては何よりの喜びである。」とありますが――ハイ、ワタクシもそのひとりです(笑)。