【Book review】猫のお告げは樹の下で

CULTURE

2023.04.19

 

🐈ちょっと心が疲れたら、読書のクスリが効きます🐈

 

 

 

タラヨウの樹のある神社が近くにありませんか

黒いハチワレの猫を見つけたら幸運の前触れ

 

著    者: 青山美智子

出版社:宝島社文庫

定    価:770円(税込)

 

昔からの小さな店が軒を連ねる商店街には心が温まる小さな本屋さんもあって欲しい。

学校や勤め帰りに、ふらりと立ち寄れて、疲れた心を休められるような……。

中野新橋で見つけた、奥さんおひとりで店番をされている、そんな風情の「いつわ書店」で手にした文庫本は、やはりほっこりした内容でした。

 

 

【本書のあらすじ】

 

ふと立ち寄った神社で出会った、お尻に星のマークがついた猫――ミクジの葉っぱの「お告げ」が導く、7つのやさしい物語。

なんでもない言葉が「お告げ」だと気づいたとき、思い悩む人たちの世界はガラッと変わっていく――。あなたの心もあたたかくなる連作短編集(文庫本のカバーより)。
7つの思い悩む人たちの物語は、『失恋した相手を忘れたい美容師』から始まり『中学生の娘と仲良くなりたい父親』、『なりたいものが分からない就活生』、『自分は厄介者とひがんでいる老人』、『学校になじめない小4の転校生』、『夢を諦めるべきか迷う主婦』、『スナック勤めから占い師になったバツイチの女』と続きます。

登場人物は皆、下町の商店街を歩いているような、何気ない普通の人達ばかり。

猫のミクジが「お告げ」に用いるタラヨウの樹のある神社も目立たない存在で、私の町にもありそうです。タラヨウの葉に印された4文字の意味深なお告げは主人公にしか見えないのも、物語のミソになっています。

 

7つの物語の最後には、まとめとして、神社の神主さんの独り語りの『ここだけの話』があって、7人の主人公たちのその後を伝えてくれます。
皆、ハッピーに暮らしていることがわかり、ああよかった。で本を閉じます。

 

 

【作者について】

 

青山美智子(あおやまみちこ)氏は1970年生まれで愛知県出身。中京大学卒業後、オーストラリア・シドニーの日系新聞社で記者生活を2年間送ったのち帰国。在京の出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に。

2017年に『木曜日にはココアを』でデビュー。翌年、2作目として本作「猫のお告げは樹の下で」が単行本として発行、20年には文庫化され、翌21年に第13回天竜文学賞を受賞しました。

 

 

 

 

【舞台&背景】

 

舞台は東京の中心というよりも外れの方面。
川沿いにジョギングできる河川敷コースがあって、国道沿いには古い花屋やさびれた電気店がぽつぽつと点在しています。その通りのひなびた雑居ビルと年期の入ったアパートの間の一本道の奥に猫のミクジが現れる小さな神社(八幡さま)があります。7つの物語に登場する主人公たちは、皆、この神社と縁を持つことになるわけです。

もっとも神社だけでなく、年期の入ったアパートや雑居ビルもそれぞれの物語で舞台として登場します。

ところで、この連作短編集の背景には、各世代に渡り、こういう悩みや不満を持っている人って結構いるはず――と思わせるアルアル感(自分も含めて)があります。当人にとっては深刻なのだけれど、生死にかかわるようなことではないし、今晩の食事に困るような悩みでもない。どれも、ごくごく身の回りのグチに近いようなことばかり。
世界や地球規模の大きな悩みではないのですけれども、かえって切実に感じてしまうんですね、これが。

 

例えば、失恋に胸を痛める(若い女性)、娘に臭いと嫌われる(中年男性)、面接下手で就職先が決まらない(大学生)、嫁とうまくいかない(舅)、保健室のお世話になってしまう(小学生に加え先生も)など。でも気の持ち方で解決できるものばかりなので救いはあります(ただし保健室を利用していた先生は辞めてしまいました)。

 

新聞の家庭欄やラジオの人生相談で読んだり聞いたりするような軽めのお悩み相談で取り上げられる事件が物語の背景になっていると言えそうです。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

「あれ、この場所は」「あれ、この人は」と読みながら短編が微妙につながっていく、伏線まわしのしかけが感じられます(同じ町内で同じ頃に起こった出来事なんですね)。
カバーに使われているミニチュア人形を頭のなかで配置しながら主人公達が暮らす町の地図や人物の相関図を想像すると別の愉しみが生まれてきます。

この作品の登場人物が別の作品でも登場しているという青山美智子さんのファンからの情報もあります。背景で前述しているように、どちらかというと人間関係に紐づくようなエピソードが7話あって、解決のされ方も、自分でもできそうな工夫で、勇気と元気がもらえます。

学校や職場で疲れた人の心を癒す『読むクスリ』と言えるのかもしれません。因みに購入した文庫本は10刷りめでした。

タラヨウの樹のある神社には猫のミクジが現れるという、神社界(?)では当たり前――という神主さんのセリフがあるので、どうやら猫のミクジは一匹だけではなさそうです。
読者は私の町の神社にも現れてくれないかなぁ、ときっと思ってしまいますよね。
また、お告げに使うタラヨウの葉に切手を貼れば、ハガキとして届けてくれるという記載が作中にあります(へぇ~と思いましたが、私はまだ試していません・苦笑)。