【Book review】花屋さんが言うことには
CULTURE
2026.07.02
🌹
古代から花と緑は暮らしと文化に必要不可欠のものでした。そして雨と恋も。
🌹

『花屋さんが言うことには』
家と庭があっての家庭だと教わったことがあります
庭がないおうちの人の心を花屋さんが癒してくれるのです
著 者:山本幸久
出版社: ポプラ文庫
定 価:869円(税込)
桜の開花宣言が出たよく晴れた日、大学の付属病院で精密検査があり、その待ち時間用に文庫を購入し向かうことにしました。
本書を選ぶきっかけとなったのは、通りすがりに見かけた新宿・中央公園で座って花見酒を楽しむ外国人観光客の姿。
芝の緑に青い空、薄ピンクの花びらがそよいで……「君たちは花見をよくわかっているね」とつい声をかけてあげたくなるほど、完璧な春ならではの光景でした。
そこで当日のアウトドアの心地よさを病院内に持ち込もうとするなら……花に関連するライトノベルかなぁ……などと思った……というわけなのです。

【本書のあらすじ】
文庫本のカバーの紹介文には――ブラック企業で身も心も疲れ果てていた紀久子が働き始めたのは、「川原崎花店」という駅前の小さな花屋さん。
花を求めるお客さんの事情はさまざま。
誰かを祝う花もあれば、少し切ない花もある。いろんな想いが詰まったお花を届けているうちに、紀久子は押し込めていた自分の夢にもう一度向き合いはじめ……色とりどりのお花と人それぞれの幸せに満ちた、優しさと元気をもらえる物語――とあります。
架空の町、鯨沼商店街の花屋で働く主な登場人物は、主人公にデザイナー志望の君名紀久・店長は外島李多、アルバイト店員の大学院生・芳賀泰斗、パート店員の元国語教師・香川光代がオリジナルメンバー。紀久子は、25歳から働き始め最終話では30歳目前の設定となっています。
物語の進展とともに花屋に関わる人物は増えて行き関係は深まります。

【著者について】
山本幸久(やまもと ゆきひさ)氏は1966年、東京都生まれ。2003年、『笑う招き猫』で第16回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
主な著作に『ある日、アヒルバス』『店長がいっぱい』『人魚姫』『あたしとママのファイトな日常』
『神様には負けられない』『おでんオデッセイ』など――と文庫本に。

【レビュー&エピソード】
読書にも充てていた検査は昼を挟んでほぼ一日。ひとつの検査が終わるたびにフロアを変えソファや椅子を変わりながら読書は継続、待ち時間に合わせて読んだページも増えていきました。
こういう機会に合わせる読書は、キリのつけやすい連作短編集がよろしいかも……ですねぇ。
ただし、いい場面では本を閉じられず自ら次の検査への移動を遅らせることもありました(苦笑)。この本の特徴として、短編それぞれに草花や庭木の名が題名としてつけられていて、その題名に相応しい物語が作られているというしかけがあります。
題名に選ばれた植物は順に、タイサンボク、ヒマワリ、キク、クリスマスローズ、ミモザ、サクラ、スズラン、カーネーション、ケイトウの9種。
その計9話となる各物語の最後には、題名となった植物の花言葉で締められるというもうひとつのしかけもあります。
「桜」名がつく物語の最終ページにはフランスの花言葉があって、その日本語訳は「私を忘れないで」。読み終わりがちょうど長い待ち時間の最中だったので印象深いです(苦笑)。
さて、ハッピーエンドの小説のおかげもあってか、検査結果を待っての診断も無事、悪い知らせがなく済みました。足取り軽く、外国人観光客が眺めていたソメイヨシノを愛でて帰路についたのは言うまでもありません。
