【Book review】不在

CULTURE

2026.05.24

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「他愛もない、ほんに他愛もない、スバラシな思い出」持っていますか

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『不在

遺産相続した病院屋敷の片付けよりも気になることが……

すべて順調に感じても意外な落とし穴があるものです

 

著    者:彩瀬まる

出版社: 角川文庫

定    価:726円(税込)

 

サブタイトルにした「他愛もない、スバラシな思い出」は、令和7年度後期のNHK朝の連続テレビ小説『ばけばけ』の最終話で主人公トキが亡き夫の回顧録を記してもらうにあたり、トキの育ての母フミがトキにかけた言葉。

「他愛もない」は日常の会話での勘違いを指し「スバラシ」は夫であるヘブンの口癖です。

トキはフミの応援のもと口述を陽気に始めますが、しだいに共に過ごした尊い日々を思い出し大粒の涙を流し慟哭にいたります。

本作品も見方を変えれば亡き父の思い出の記ともいえましょう。父との思い出をたどりつつ主人公が成長していくお話でもあります。

 

 

 

【本書のあらすじ】

 

文庫本カバーの紹介には――父の死をきっかけに実家の洋館を相続した明日香。

24年ぶりの実家は懐かしくも忌まわしい品で溢れていた。遺品を整理しながら彼女は、家族への複雑な思いと父から必要とされなかった事実に気づかされる。やがて好調だった仕事はうまくいかなくなり、恋人との関係も壊れ始めるが……。

「辛いことを生き延びた先で、すごくきれいな景色を見られるよ」――この世界のどこかにあると誰もが信じている「愛」のその先を描く傑作。――とあります。

 

 

【著者について】

 

彩瀬(あやせ)まる氏は1986年、千葉県生まれ。

2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で第38回野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で第158回直木賞候補、19年『森があふれる』で第36回織田作之助賞候補。(他の著書略)繊細かつ美しい筆致で多くの読者を魅了する。――と紹介があります。

 

 

 

 

【レビュー&エピソード】

 

冒頭で述べた「他愛もない」(「たわいもない」とも)は、「取るに足らない」あるいは「張り合いがない」等と表現したい時に用

います。

そして「他愛」は当て字なのだそう(2021/9/6マイナビニュース)。愛に傷つそして立ち直った人が悟りの境地で当てたのでしょうか。「他人様からの愛なんてありません」を「取るに足りない」という意味の言葉に初めに当てた方の漢字選びのセンスにひれ伏します(感嘆)。

江戸時代以降、当て字が広まったようですが、共感する人が多いから現代まで使われ続けているのでしょうね。

さて、「愛の先」がテーマの本作品でも他愛もないエピソードが最初のほうからあって、地域医療の名家に生まれた主人公の娘と2代目である父との思い出がパチンコのお供だったり、町中華店での昼酒の付き合いだったりするので……

医師免許を持って内科と小児科を診る若先生が小さな娘を連れてそんな散歩はいけないよ……と突っ込んでしまいます。

また母が父と別れて兄と主人公を連れて家を出て24年経ったのちも遺産相続の対象になっている幸運。主人公の職業が漫画家で知名度もあり(サイン会を開けてファンもいる)アシスタントも雇えるほど仕事がある幸せ。

さらに5つ年下の彼はイケメンで舞台での役もある期待の新進気鋭の俳優……と物語の設定がこれでは他愛もなさすぎます(失礼・汗)。

このままハッピーエンドで終わらせてはなるものかと多数の読者は(私を筆頭に)強く思うはずなのであります(苦笑・汗)。