老後の資金がありません
CULTURE
2022.11.12
著者:垣谷 美雨
出版社:中央公論新社
定価:704円(税込)
日本の政府筋から出された、年金のほかに老後の資金として2000~3000万円が必要だとという話を強く記憶されている人も多いのでは。
書評子もその一人。
虎ノ門ヒルズのファミマで本書が目に留まりました。
雑誌や文庫が書店のようにジャンルごとに分けて陳列してあるのですが何故か「HEALTH(健康)」のコーナーに。。
虎ノ門ヒルズという巨大オフィスビルでは、ご年配のビジネスマンも多く、健康への関心も高いでしょうから、このほうが手にとってもらえるチャンスも多いのでしょう。本書を原作に映画化(2021年10月30日公開)もされており文庫本はオリジナルのカバーの上に主演の天海祐希が表紙のWカバーがけとなっていて、そこには「30万部突破」と誇らしげなコピーが謳われています。
【本書のあらすじ】
50歳過ぎのいわゆるフツーの主婦が主人公。
夫(57歳)は中堅の建設会社に勤務。2人の子供の大学の教育費を終え、3DKのマンションの住宅ローンも残り2年。
節約とパート勤めで小金を貯め、老後は安泰のはずだったのに……。長女の結婚、舅の葬儀と、見栄を張りたがる夫にひきづられて貯金がどんどん減っていく!さらにパート先からは突然の解雇通知、それに止まらず今度は夫の突然の失職と金難が次々とふりかかる。主人公はその災難を乗り越えていけるのか?
悲壮感なくコメディタッチで読めて、タメになる家計応援小説。
【作者について】
垣谷美雨(かきや みう)氏は1959年生まれ。明治大学でフランス文学を専攻し卒業。
長らく会社勤めを経たのち、2005年「竜巻ガール」で第27回小説推理新人賞を受賞し、小説家デビュー。本書のテーマ「老後」のほか「定年」、「遺品整理」、「お墓」といった、人生の晩年の問題を扱った作品も多くあり、人生経験を重ねてきた作者ならではの視点と軽妙なタッチな文体で、重くなりがちな内容も楽しみながら読み、考えることができます。
【舞台&背景】
主人公篤子の夫の実家は浅草の老舗和菓子店。
夫が後を継がなかったため、義父と義母は店を畳み、娘(夫の妹)の住む千葉の九十九里に移り平屋の家を建てます。
義父が自立した暮らしができなくなって、入居した豪華ホテルのようなケアマンションの住居費と贅沢な暮らしがたたり、店を畳んだ際に手にした売却益の2億円という大金が底をついて、毎月9万円の仕送りが必要という設定。夫の妹=小姑とのバトルも見逃せません。
【レビュー&エピソード】
主人公篤子と夫のW失職、収入ナシというピンチに、篤子は姑への仕送りを止め、ケアマンションを解約し姑と同居することを決断。
嫁姑間は、最初は当然、ギクシャクしていたものの、年金にまつわる犯罪めいた事件が加わり、嫁姑間の溝は一気に狭まります。
うまくいきすぎるきらいがあるかもしれませんが、切実な問題だからこそハッピーエンドに終えたいもの。冒頭から結婚式、葬式と冠婚葬祭の2大出費の内訳もよくわかり、これはHOW TO本というか実用小説といっても過言ではないのかも。解説の室井佑月氏も絶賛です。
そして映画のキャストをあてて読んでみるのも、さらに面白くする工夫かもしれません。