木暮荘物語

CULTURE

2021.05.28

著者

三浦しをん

祥伝社文庫

定価:本体600円+税

 

10年ほど前の作品なのにまた読みたくなったのは意味深でゴージャスなWカバーが惹きつけたのと、紀州のドン・ファン殺害事件の犯人(元妻25歳)の逮捕が重なったからに違いない。私は、この小説の老大家(ろうおおや)のようにひどく真面目にセックスしたいと訴える主人公を知らない。それも色欲を伴わずに。当時30代前半の作者が、「老人と性」という問題をとりあげ上手に処理しているのは、サスガ。

 

「木暮(こぐれ)荘」という木造ボロアパートの住人や彼らに関係する人たち(決してエリートではなく、一見フツーのようでいて、なにやら宿命めいたものを背負っている)をとらえた7つの物語は全編、「生と性」が係わってくる。でもそこにはちゃんと「愛」があって優しい気持ちの読後感で終わります。

 

男は種をまけなくなったら死ぬときと嘆く老大家の隣人には、いわゆるヤリ〇ン(でもワケあり)の女子大生。むろん体の関係には至らず、かわって心が癒されていく。紀州のドン・ファンは癒されることなく愛されずに逝った。新高円寺のあゆみBOOKSで購入。この近辺にも愛すべき住人のボロアパートは多い。