【Book review】くますけと一緒に

CULTURE

2025.11.26

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小さな自分とぬいぐるみ。一緒に見た不思議な夢の思い出ありませんか?

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『くますけと一緒に

人間は何かに頼らなければいけない生き物

あとがきでわかる著者の「ぬい」依存度は復刊ごとにアップ

 

著    者:新井素子

出版社:  中公文庫

定    価:968円(税込)

 

「クマ出没!」のニュースが日本各地で、頻繁に報じられています。

そんななか、旅先の田舎の書店で表題の〝くますけ″の本と出会いました。田舎なので店のある町にもクマが現れるのかなぁ、なんてふと思い、文庫本に巻かれたオビの「2025年は、このクマが怖い‼ 」というコピーが、本の内容とは無関係に、まず目に刺さったというわけです(苦笑)。

さて、三度目の復刊で新装版となった本書のカバーは小さなクマのぬいぐるみを抱いた少女のかわいらしいイラストです。都会にいる読書好きの友人とメールで、この本を話題にしたところ、街の書店でも平積みで気になっていたようです。

但し、ホラーのコーナーに置かれていたらしく……小生はそのジャンル分けには、少しばかり異議ありです(笑)。

 

 

 

【本書のあらすじ】

 

主人公は小学4年の女の子・成美。

両親が突然死して、継母の裕子夫妻に育てられるという筋書き。物語は成美の両親の葬式のシーンから始まります。いろいろな不幸な出来事の原因は成美の呪い(?)という設定、その呪いの媒介役となったのが、“くますけ”と成美が名付けた、クマのぬいぐるみ。

成美とくますけは、テレパシーで通じあっています。

唯一の相談相手、くますけの持つ霊力によって成美の願い(良いことも)は叶うのです。

文庫本のカバーには――あたしは悪いことなどしていないのに、いつも嫌われていた。

同級生、そして両親にも。そんなあたしを気にかけてくれるのはママの親友・裕子さんと、くますけだけ。
悪い人は死んでしまえばいい……。願うと同級生は事故にあい、両親も死ぬ。裕子さんに引き取られたあたしは、ここでくますけが邪悪なぬいぐるみなんかじゃないかと思いはじめ……。――とあります。

 

 

 

 

【著者について】

 

文庫本の著者紹介によりますと――新井素子(あらい もとこ)氏は1960年東京都生まれ。

立教大学独文科卒業。高校時代に書いた『あたしの中の……』が第一回奇想天外SF新人賞佳作となり、デビュー。81年『グリーン・レクイエム』、82年『ネプチューン』で連続して星雲賞を受賞、99年『チグリスとユーフラティス』で日本SF大賞を受賞。

他の作品に『……絶句』『もいちどあなたにあいたいな』『イン・ザ・ヘブン』『銀婚式物語』『未来へ……』など多数――となります。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

くますけは、成美の両親が、きっと昔に、もっと小さな成美に与えたものだと思います。

自分たちが愛娘ために用意した玩具によって自らの命が失われる……とは、文章の流れだけだと、冒頭のようにホラーのジャンルに入れられてしまう……のかなぁ(苦笑)。とはいえ、映画『チャイルド・プレイ』の悪魔の魂を持つチャッキーと同じ人形ではありますが、こちらはかわいいぬいぐるみ。

また、誰しも心の奥底で「死んでしまえ」とつぶやいたことはあるのではないのでしょうか。とにかく成美がくますけに依存している様子が、不憫で(涙)。

継母夫妻がいい人でよかったなぁ、とまたグスリ。「どんな名優も子役と動物にはかなわない」という言葉がありますが、このお話にも使えそう。著者もホラーのつもりで書いたとはいえ、ハッピーエンドでもありますしファンタジーの範疇かな、と。ところで、継母・裕子が重要な役どころですが、実は重大な秘密が……それは読んでのお楽しみ!