【Book review】何者

CULTURE

2025.10.01

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学校が夏休み中の猛暑日に大学生に人気と教わった文庫本を読んでみました。

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『何者

自己分析は誰のために? 就活は最後の改名?

就活という競技の参加者たちの心理が痛く伝わります

 

著    者:朝井リョウ

出版社: 新潮文庫

定    価:737円(税込)

 

書き下ろした単行本の初版発行が2012年。

文庫化は15年7月で、購入した文庫本は今年(25年)4月で33刷と、絶大な魅力を保ちロングセラーを続けています。

カバー写真のリクルートスーツ姿の大学生たちが本書のテーマをひと目で伝え、「直木賞受賞作」のオビが誇らしげにアピールしています。

「就職を希望する学生の必読の書」ではないのでしょうか。 マイナビのリクルート情報によると、就職活動が本格的に始まるのは就職情報が解禁となる大学3年生の3月。

その年(4年生)の秋に内定式を行う企業もあるなかで、夏休みを目処に一段落する就活生も多いのでは……。本書を通じて、うまくいった人、いかなかった人の気持ちを推し量ってみたいと思います。

 

 

【本書のあらすじ】

 

文庫本のカバーの紹介文では――就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎が率いるバンドの引退ライブに足を運んだ。

光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから……。

瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。

だがSNSや面接で発する言葉の奥に潜む本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えてゆき……。――とあります。15年前の就活ケジュール(当時の情報解禁日は12月1日)に沿って描かれるので季節は秋冬がメイン。

現在の就活と季節は違えど、ES(エントリーシート)提出やGD(グループディスカッション)などの活動内容は変わらず、登場人物たちの内定に関する欲望や嫉妬の感情表現の数々が毎年、就活生の心をつかんで離しません。

 

 

【著者について】

 

文庫本の著者紹介では、出生年や学歴等の記載はなく(なにかの理由で? )、初版の単行本の著者紹介と早稲田大学やリクルートのH.P.でアーカイブされている著者インタビューのデータも加えてみますと――朝井(あさい)リョウ氏は1989年岐阜県生まれ。

早稲田大学文化構想学部在学中の2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。

就活も経験し12年卒業後就職。会社員と作家活動を両立させて、13年『何者』で第148回直木賞、14年 『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。

入社後3年で退職し、筆1本で生計を立てる小説家に。21年『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。

ほか著書多数――となります。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

単行本と文庫本で読み、映画も配信で鑑賞しました。

映画のセリフは、ほぼ原作の通りですが、シーンの入れ替えの演出があります。

物語の重要な要素であるツイッターはXと名称を変えましたが、転回の鍵となるメルアドからのアカウント検索ば旧来通りで話の流れに支障はありません。

現役就活生からすれば著者本人の就活が下敷きなので説得力は十分。

それも就職成功→単行本化→直木賞受賞とことごとく羨らやましい限りです。その就活に関してSNSで見かけた著者のお話では、在学中の作家デビューに際し、ご両親からまず就活の釘を刺されたそうです。就職する、しないは本人の自由、いわんや学生を続けるか否かも含めてのはずですが……。

早稲田大には、「中退1流、留年2流、卒業3流」という出身者の見方もあるようですね。作品の登場人物も中退、留年、院生と駒は揃っています。