【Book review】早朝始発の殺風景
CULTURE
2025.09.21
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学校が夏休み中の猛暑日に大学生に人気と教わった文庫本を読んでみました。
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『早朝始発の殺風景』
何気ない日常にはミステリが潜んでいる。
観察し考え続けていると隠された物語は現れてくるのです・・・
著 者:青崎有吾
出版社: 集英社文庫
定 価:682円(税込)
8月当初の平日昼下がり、明治大学和泉校舎内の三省堂書店を覗いてみました。
夏休み中とあって、キャンパスをはじめ、店内も静かな様子でしたが、そのかわり親切な書店員さんが、さらに親身になって本選びの相談にのってくださいました。
大学構内にある書店なので、まずは、明大OBの作家をオススメ。
表題の作品は現役学生の人気も高いとのこと。それでは、高校生の制服姿の男女がカバーの絵柄のこのコ(文庫本)を私の夏休みの課題図書(版元の文庫コーナーは「ナツイチ」のコピーでアピール)とすることにしました。
【本書のあらすじ】
小説雑誌に不定期掲載したお話5本をまとめた短編集です。
巻末には、単行本にする際に加えた書き下ろしのエピローグがあります。文庫本のカバーの紹介文では――青春は、気まずさでできた密室だ。始発の電車で遭遇したのは普段あまり話さない女子。二人は互いに早起きの理由を探り始め……(表題作)。
部活の引退日、男同士で観覧車に乗り込んだ先輩と後輩。
後輩には何か目的があるようだが(「夢の国には観覧車がない」)。不器用な高校生たちの関係が小さな謎と会話を通じて少しずつ変わってゆく。ワンシチュエーション&リアルタイムで進行する五つの青春密室劇〉――とあります。
【著者について】
青崎 有吾(あおさき ゆうご)氏は1991年神奈川県生まれ。
明治大学文学部卒業。2012年『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。24年『地雷グリコ』で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受賞。著書に『水族館の殺人』『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』『図書館の殺人』の他、「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズ、「ノッキンオン・ロックドドア」シリーズなど――文庫本より。
【レビュー&エピソード】
どのお話も登場人物は高校生。
そしてどの謎解きも恐怖に震える事件……では全くなく、日常のひとコマとして無意識のうちに流れていくような出来事ばかり。大学の教養過程で学ぶ1、2年生が利用する書店で人気。ということは……受験勉強の隙に過ぎさった青春のひとコマを惜しむようにして読むのかなぁ、などと思ったのですが……。
いやいや、世の不可解な出来事はみな些細なことから始まる……との見方をすれば、この小説ば、現れた事象を注意深く見つめ、「考える」クセをつけるには、うってつけの教本ではないのかと思い直した次第。
賢い学生は、スマホで時間つぶしをするのではなく、この小説のように、日常を観察し考察することで、活気のある毎日を過ごしているのではないのでしょうか。
謎解きの題材として学生のたまり場として馴染み深いファミレスのドリンクバーや、卒業式に来なかったワケあり同級生の個室(解説によると人気が高い)も用意されています。
ところで、物語を完結させるエピローグは5つの短編のすべてのその後を回収したお話で登場人物たちの近況についほっこり。
解説の池上冬樹(いけが みふゆき)氏が「後味がとても良く、しみじみといい小説を読んだ幸福感に包まれる」と評を〆ているのは(もちろん私も)、エピローグの余韻の効果が十分果たされているからかな、とも思いました。