【Book review】今夜、すべてのバーで 〈新装版〉

CULTURE

2025.08.31

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教養とは一人で時間をつぶせる技術のこと。

お酒のかわりに読書をしましょうか。

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『今夜、すべてのバーで 〈新装版〉

「人間は何かしらに依存して生きている」と主人公、

「時間をつぶせなければ酒しか残されていない」とも。

 

著    者:中島らも

出版社: 講談社文庫

定    価:814円(税込)

 

ソバー キュリアス(略してソバキュリ)ってご存じですか?

Sober Curious:「シラフ」と「好奇心」を組み合わせた造語で、欧米から広がった「飲めるけれども飲まないこ

とを選ぶライフスタイル」のことです。

2019年にルビー・ウォリントンが著作で実践する人をソバキュリアンと呼び、このライフスタイルを定着させました。

日本では2021年に翻訳し『飲まない生き方 ソバーキュリアス』という題名で発行(方丈社)されています。

さて、「蕎麦と胡瓜ではありませんよ」なんて軽口を読書家の友人と交わしたお昼どき。

友人から勧められたのが中島らもの著作です。

アルコールの摂取で着想を得る創作スタイルはソバキュリとは真逆の生き方。ついに酩酊した挙句、階段から落ちて脳挫傷を負い、意識が戻らぬまま52歳の若さで亡くなってしまいました。

いろいろな才能に充ち溢れた方なので、本当に残念でなりません(ご存命なら今年73才)。命日は7月26日(人工呼吸器を外した日)とあって、この夏に読書すべき一冊に相応しいかなと思い、ご紹介いたします。Kindleの読み放題にも入っています。

 

 

【本書のあらすじ】

 

アルコール依存症患者としての体験(1988年、アルコール性肝炎で入院)をもとに書き上げた本書。

診察→即入院の闘病生活をメインに、そこで出会う主治医と個性的な患者とのやりとりを通じて、依存とは何なのか、死生感はどう持つべきかなど人間における重大なテーマを探っていきます。

主人公は著者本人で間違いなく、創作ながらノンフェクションの趣き。アルコール以外にも依存を引き起こす薬物に関する著者の知識の深さも伺い知ることができます。

初出が1990年(著者38歳)と平成の始めから昭和を振り返る時代背景(バブルも体験)もあって、昭和の青年の

退廃的な暮らしがエピソード的に紹介されます。

そして著者は、現実では決してできない断酒を作品のなかで実現しようとするのです。

 

 

【著者について】

 

文庫本〈新装版〉によると(一部略)――中島(なかじま)らも氏は1952年、兵庫県尼崎市生まれ。

大阪芸術大学放送学科を卒業。ミュージシャン。作家。主な著書に、『明るい悩み相談室』シリーズ、『お父さんのバックドロップ』『人体模型の夜』『白いメリーさん』『永遠も半ばを過ぎて』『アマニタ・パンセリナ』『寝ずの番』『バンド・オブ・ザ・ナイト』など著書多数。

(本作の)『今夜、すべてのバーで』で第13回(1992年)吉川英治文学新人賞を、『ガダラの豚』で第47回(94年)日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞。

2004年7月26日死去。享年52歳。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

カウンターカルチャーの旗手として活躍していた著者の創作に向き合う苦闘の姿とその作品の面白さは、YouTubeにあげられた数々の記録映像で確認可能です。

本書のなかのエピソードの多くは、ほぼ実際にあった話と、著者と親交の深いユーチューバーが証言しています。

同時に、生きていてくれれば……とその死を惜しむ声が亡くなってずいぶん経っているのに、まだまだ多く上がっています。

聡明な著者だから、酒の力を借りなくても創作できたのではないかとも思えますが、聡明過ぎるがゆえに世間のレベルに降りてくるのに酒の力が必要だったのかも……。合掌。