【Book review】花まんま
CULTURE
2025.08.06
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作り話のはずなのに
本当の話のように思えてしまう現代の名作をご紹介
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『花まんま』
20年前の直木賞作品が今春ついに映画化!
なさそうでありそうな不思議な話はまだ版を重ねています
著 者:朱川湊人
出版社: 文春文庫
定 価:836円(税込)
梅雨時のうっとうしい雨の一日、錦糸町に用事があり、北口を出てすぐの大型商業施設に入っている、くまざわ書店で本書を見つけました。
ダブルカバーで、イラスト表紙のもとのカバーの上に、この春公開された映画のスチール写真(青空のお花畑を挟んだ上下に鈴木亮平と有村架純)が使われたカバーがかかっています。
裏側には「直木賞受賞のベストセラーついに映画化!」とのコピーとともに花で食材を模した小さなアルミのお弁当箱の写真もあってイメージがプラスされます。なによりキレイでカワイイのが、いいですね。
【本書のあらすじ】
「昭和30~40年代の大阪の下町を舞台に、当時子どもだった主人公が体験した不思議な出来事を、ノスタルジックな空気感で情感豊かに描いた全6篇。直木賞受賞の傑作短編集」と文庫本のカバーにあります。
6篇とは順に「トカビの夜」「妖精生物」「魔訶不思議」「花まんま」「送りん婆」「凍蝶」と、どれも魅力的なタイトルばかり。
表題作の「花まんま」を、カバーでは――「母と二人で大切にしてきた幼い妹が、ある日突然、大人びた言動を取り始める。
それには、信じられないような理由があった……」と紹介。
2008年4月に文庫化され、25年(本年)4月で第14刷と長く人気を保っていることがわかります。
【著者について】
文庫本の著者紹介によると(一部略)――朱川 湊人(しゅかわ みなと)氏は1963年大阪府生まれ。
慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務を経て、2002年「フクロウ男」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。
翌03年、「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
初の著書となった『都市伝説セピア』が直木賞候補となり、05年、本作にて直木賞を受賞。
著書多数――となります。
【レビュー&エピソード】
どの作品もメルヘンですが、昭和30~40年代の大阪の下町ならそういうこともあるかもしれないなぁ、と思わせてしまうところがミソ。
著者の力量に他なりませんが、昭和のTV番組はありえないのにありえそうに見せる怪しい企画(お祭りで興行されていた「見世物小屋」的なものとか)もたくさんありました。
悪びれることなく、それを洒落で済ませてしまう不適切さが許されたということなんでしょうね(不条理な笑いを基調とする落語の世界にも怪談というジャンルがあります)。
本書に収められた6つのお話もTV番組の企画として通用するのではないのかなぁ、と思います。
表題作の「転生」というテーマは信じる方も一定数いらっしゃいますし……。
解説の重松 清氏はある種の〝翳り″が重要な要素であると記されています。
差別や偏見、そして死がどの物語にも関わってきます。
「トカビの夜」の作中に舞台は1970年の万博前の大阪の下町との記述あります。その頃なら、街角には実際の翳りもたくさんあったでしょう。
暗闇のなかで得体のしれない生き物や妖精がうごめいていたように思います。現在、いたるところすっかり明るく健全になっていく街角で子ども達はどんな妄想を膨らませているのでしょうか。
閑話休題、「トカビの夜」で登場する〈このへんがシクシクするような気がする〉パルナス製菓のCMソングはYouTubeで簡単に聞くことができます。確かにマイナー調で〝翳り″がいっぱいです(苦笑)