【Book review】西洋菓子店プティ・フール

CULTURE

2025.07.23

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脳のエネルギー源は「ブドウ糖」。

甘いものを欲するのは疲れた脳が出すサイン。

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『洋菓子店プティ・フール

小説とスイーツは、心の栄養になればいい!

艶のある言葉が生クリームのようにあふれでてきます

 

著    者:千早茜

出版社: 文春文庫

定    価:748円(税込)

 

新年度に入り「5月病」という言葉が盛んに聞こえるようになった頃の読書では、ストレス発散も自然と目的に。

それなら「甘味」を扱った内容なら、お腹が膨れることなく(体重増も気にすることなく・汗)、心が満たされていいのでは……と読書好きの友人とも意気投合。

そこでまず、この一冊をチョイス(友人は著者の大ファンなのです・笑)。

五感を刺激する言葉を活字で追いながら、美味しいスイーツの世界に浸ることにします。

 

 

 

【本書のあらすじ】

 

目次に「グロゼイユ」「ヴァニール」「カラメル」「ロゼ」「ショコラ」「クレーム」とお菓子に関わる6つ題名が並びます(雑誌「オール讀物」に不定期ながら2年かけて連載)。

お話ごとに主役が代わりながらも、それぞれの物語は関わりあう、オムニバス風な構成。

別のお話の伏線が現れたり、回収されたり、そんな箇所を見つけるたびに「あ~そういうことなのね」と小躍り。隠れたお宝を見つけたようで楽しい。

フランスで修行したパティシエール(女性の菓子職人)の亜樹の成長物語でもありますが、意地が汚くて残忍な、いわゆる悪人は登場しません(だから安心して読めます)。

同じく菓子職人である祖父のもと、下町の西洋菓子店「プティ・フール」(祖父の店)で働きながら、女ともだち、恋人、仕事仲間、そして店の常連客たちなど、店を訪れる人々が抱えるさまざまな事情と、それぞれの変化を描きます。

巻末には、気鋭の著名パティシエール・岩柳麻子氏との対談も収録。

 

 

【著者について】

 

千早 茜(ちはや あかね)氏は1979年、北海道江別市生まれ。

立命館大学文学部卒業。

2008年、「魚」で第21回小説すばる新人賞受賞し、デビュー。受賞後「魚神」と改題。

09年、『魚神』で第37回泉鏡花文学賞受賞。13年、『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞受賞。

21年、第6回渡辺淳一文学賞受賞。

何度か直木賞の候補となったのち23年『しろがねの葉』で第168回直木賞をついに受賞。

著書多数。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

パテシエールとの対談でもわかるように、著者はスイーツを深く愛しているがゆえに、お菓子づくりに関する造詣が深く、製造の過程や厨房の清掃なども作品中で綿密に描写しています。

面白いのは、この作品が生まれたきっかけが、編集部からの雑誌の官能特集号での短編依頼だったこと。

それが第1話の「グロゼイユ」であり、「味」で人物の心情を描くことを試みる連作の始まりとなりました。

ところで、亜樹のフランスでの修行時代の苦労話は出てきませんが、「ふてほど(不適切にもほどがある!)」のごとく、昔気質の職人の世界ならではの厳しさが、お菓子づくりにもあると聞いたことがあります。

名パテシエの祖父のもとで働けてラッキーなのかも。

また、ウェブの読書メーターを追ってみたら、著者の文体がスイーツを表すのにぴったり、との投稿がありました。解説の平松洋子氏は、作品中の刺さるフレーズを取り上げ解説。

例えば「生クリームはかたさではなく艶……女の肌と一緒……美しいのは一瞬」とか、

「菓子の魅力は背徳感……こんな綺麗なものを食べていいのかって思わせなきゃ」「女を興奮させない菓子は菓子じゃねぇ」とか、じいちゃんのタンカで始まり、亜樹の言葉「菓子づくりはひとときの夢を見る仕事」を使って解説の〆としています。