【Book review】ゴリラの森、言葉の海

CULTURE

2024.07.07

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ヒトはなぜ無理をするのでしょう。生き物の本で癒されませんか

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『ゴリラの森、言葉の海

言葉を持ったサルはその言葉で強くなったけれど苦しむ。

森に残った寡黙なゴリラの暮らしに魅かれませんか

 

著    者:山際寿一/小川洋子

出版社:新潮文庫

定    価: 649円(税込)

 

友だちから借りたこの文庫本、実は二度めの読書となります。

2019年発行の単行本で読んだことがあるのです。4年後の2021年に文庫化されたのですが、巻末に9Pの往復書簡のおまけ(?)がつきました。そこに書名の由来となるべき事柄が詳しく述べられています。

かつて単行本を読み終えた時、面白かった反面、書名が最後まで正直、ピンとこなかったのですが、往復書簡を読んでようやく腑に落ちました。

もしかしたら他の読者からの質問も多かったのでは?(…なんて私が鈍いだけなんでしょうけど……)いずれにせよ文庫化と愛読書を貸してくれた友だちに感謝!です。

 

 

 

【本書のあらすじ】

 

文庫本の裏カバーの文章を転載すると――

野生のゴリラを知ることは、ヒトが何者か、自らを知ること――アフリカの熱帯雨林でゴリラと暮らした霊長類学者と、その言葉なき世界の気配を感じ取ろうとする小説家。

京都大学の山極研究所で、野生のサルやシカが生息する屋久島の原生林の中で、現代に生きるヒトの本性をめぐり、二人の深い対話は続けられた。

知のジャングルで、ゴリラから人間の姿がいきいきと浮かび上がる稀有な一冊。

――とあります。2014年2月、‛14年7月、‛15年3月に各1日、山極研究所で。16年3月の2日間、屋久島で対談が行われています。

 

 

【著者について】

 

文庫に記載の著者紹介をもとにすると――

山極 寿一(やまぎわ じゅいち)氏は1952年東京都生まれ。

霊長類学者、ゴリラ研究の第一人者。京都大学理学部卒業。同大学院で博士号取得。京都大学霊長類研究所などを経て同大学教授、京都大学総長。

2021年より総合地球環境学研究所所長。著書に『父という余分なもの―サルに探る文明の起源』『虫とゴリラ』(養老孟子と共著)ほか多数。河合隼雄学芸賞選考委員。

 

小川 洋子(おがわ ようこ)氏は1962年岡山県生まれ。小説家。早稲田大学第一文学部卒。

‛91年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。『博士の愛した数式』(読売文学賞、本屋大賞)、『薬指の標本』『いつも彼らはどこかに』『生きるとは、自分の物語をつくること』(河合隼雄との対話)はじめ多くの小説・エッセイがあり、海外にも愛読者を持つ。芥川賞選考委員、河合隼雄物語賞選考委員など。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

京大総長退官時の記念講演ではゴリラの話しかしなかった。

というエピソードは山極氏の人間性と極め付きの学究の徒であることが伝わってきます。とにかく長く深くゴリラをはじめチンパンジーやオランウータンという霊長類研究を続けてきた山極氏のお話が面白く、聞き手の小川氏も感嘆するだけで、正直もう精一杯なんじゃないかなぁ、と思う次第。

ゴリラにも同性愛者がいて、ペットを飼ったりもするなんて話は、私も会話が途切れた際のネタ箱に入れて時折活用しています(笑)。

言葉を持ったサルであるヒトが強くなっていく過程と、誤って言葉を使うことにより、危険な状況に陥いるメカニズムも対談のなかで紹介されます。物言わぬゴリラのほうが、まっとうに生きている様にも思えます。
ヒトは言葉の海で溺れないようにしなければ……。