【Book review】言葉の虫めがね

CULTURE

2024.03.03

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言葉のチカラを読書でつけよう!

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『言葉の虫めがね

外面ではなく内面を見つめあう恋に

短歌の世界は誘ってくれます

 

著    者: 俵 万智

出版社:KADOKAWA/角川文庫

定    価: 420円(税込)

 

 

平安の貴族社会を舞台に「源氏物語」の人間関係を描く大河ドラマ「光る君へ」の第2話から紫式部(むらさき しきぶ)=まひろ役が吉高由里子(よしたか ゆりこ)になりました。

大人になったまひろの仕事は男子のふりをして和歌や文の代筆をすること。好きな女性に贈る歌(恋文)を代わって作っていたのですね。

歌で気持ちを伝えることが日常茶飯事だった時代、歌えない人はさぞや困ったことでしょう。

 

ところで、歴史上の偉大な歌人は多々あれど、現代を代表する歌人で知名度ナンバー1とくれば、俵万智(たわら まち)氏ではないでしょうか。

「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」を一度は耳したことのある方も多いはず。
当代きっての歌人がどんな言葉に反応するのか、Kindleで見つけたので紹介します。

 

 

【本書のあらすじ】

 

前半は若者の流行(はやり)言葉や独特の表現を軸に書下ろし、後半は雑誌などに書かれたものを集めた36編のエッセイ集です。

とはいえ初出は2001年、23年前とあって「耳をダンボ」(本書中の表記。懐かしいかも)にして筆者が集めた日常の言葉も当時の刺激は薄れてしまっているかもしれません。

その代わり、後半に多く登場する歴史に名を残す有名な歌人とその歌についての考察は、時の流れに色褪せることなく、逆に生き生きと現代人の胸に響きます。人間の本質とは、きっと万葉集の頃とそう変わらないからでしょうね。

 

 

【著者について】

 

俵 万智(たわら まち)氏は1962年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部日本文学科に入学。

在学中に「心の花」を主宰している佐佐木 幸綱(ささき ゆきつな)氏に師事し、短歌の世界に(本書のなかで師とのやりとりが記されています)。

卒業後、高校の国語教師として働きながら作品を発表。「万智ちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校」は、その出発を飾る3句切れの短歌です。

家族や友人らから「ちゃん」づけで呼ばれている作者は大学を卒業したばかりで、教え子たちとは年の差もそんなに変わりません。気恥ずかしさや誇らしさやらが、ほわんと伝わります。

‘86年『八月の朝』で第32回角川短歌賞、翌年発行の第一歌集『サラダ記念日』は、歌集としては異例の大ベストセラーとなり社会現象に(西新宿のコクーンタワーのブックファーストを覗いたところ、「サラダ記念日」の文庫本の帯には「累計285万部、35年間読まれ続ける永遠のベストセラー」とありました)。

現在も、第一戦の歌人として活躍されており2003年には紫式部の名を冠した紫式部文学賞を受賞。‘23年には、学術及びスポーツ・芸術文化分野における優れた業績が認められて紫綬褒章が授与されています。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

「サラダ記念日」の海外出版に際してのエッセイも本書に含まれていて、デンマーク語の翻訳本を読んだ現地の若者から「短歌って、恋のときめきと、とても相性がいい」「形は小さいけれど、大きな感動も小さな感動も、できてすごい」と称賛されています。

 

著者の古文の解説はなんて上手なのだろう、と思ったら高校の国語の教師なんですものね。授業を受けた橋本高校の生徒さんたちを羨ましく思います(笑)。