【Book review】子の無い人生

CULTURE

2023.08.11

 

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読書は私の心に潜む聞き取りづらい本音を

私に気づかせてくれる

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『子の無い人生』

 

子の有無は人生最大の選択肢と言えるのでは?

でも、 なんとなく選ぶ人も多いのも事実

 

著    者: 酒井順子

出版社:KADOKAWA/角川文庫

定    価: 572円(税込)

 

育児放棄、児童虐待、毒親……「子は宝」といいながら、子供に関する痛ましい事件が後を切らないのは何故なんでしょう。

神戸で6歳の男児が虐待後死体遺棄され、直後に大阪では、遊興費欲しさに8歳のわが娘に食事を与えず共済金や保険金を詐欺した母親の報道があるなか、Kindleの読み放題で見つけました。

結婚しない女性の『負け犬の遠吠え』をヒットさせた著者の40代のエッセイです。

 

著者の取材でも、産んでみて「私は子供をあまり好きじゃないってこと」がわかった女性がいることが報告されています。もちろん、母性が働かないのであれば、夫やパートナーがカバーしてあげればよいのですけれど……。

逆に子供が欲しくてたまらないのに受胎できず妊活に苦しむ夫婦もいます。「子の無い人生」の選択肢があることを知っておくことは、苦しみや最悪の不幸を招かずによいのではないか……著者自らが子の無い人生を送っているエッセイは、徹頭徹尾、俯瞰の目で子無しの人生を紐解いてくれます。

男性も読むべき一冊。少子化担当大臣もぜひ!

 

 

 

【本書のあらすじ】

 

冒頭に述べたように、40代になった著者が自ら感じて取材した『子供がいるか、いないか』に対するエッセイ集。

角川文庫のH,Pには、「人生を左右するのは『結婚しているか、いないか』ではなく『子供がいるか、いないか』ということ。子がないことで生じる、あれこれに真っ向から斬りこむ」とあります。

エッセイは「はじめに」と「あとがき」を含めて24編。それに加え、昨年銃撃を受けて亡くなった安倍晋三氏の奥方の安倍昭恵さんとの特別対談が刊行記念(首相夫人時代)として。

さらに、ジェーン・スー氏(こちらも子の無い人生を体現中)の解説がつきます。

エッセイの文中には「結婚はしなくても子だけ産めばいい」とか「子供は最後の看取り役」「子供は貴重品、孫はさらに貴重品」と介護や墓と家系をテーマに取材で得た言葉のの記述も。

首相夫人であった安倍昭恵さんに寄せられる“ご世継ぎ”の催促は容易に想像できます。それを乗り越えて、ファーストレディーとして過ごされた生き方に励まされる読者も多いのではないのでしょうか。

 

 

 

【著者について】

 

酒井順子(さかい じゅんこ)氏は1966年東京生まれ。高校時代より雑誌『オリーブ』に寄稿し、立教大学卒業後、広告代理店の博報堂勤務を経てエッセイ執筆に専念。

2003年に刊行した『負け犬の遠吠え』がベストセラーとなり、講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞とダブル受賞。

30代以上・未婚・未出産女性を指す「負け犬」は2004年の流行語大賞でトップテン入りを果たしました。自らも指す自虐的なタイトルですが、独身女性にエールを送るエッセイの内容が高く評価されました。

 

 

 

 

【舞台&背景】

 

わが国の少子化に歯止めがかかりません。

少子化の具体的な目安となる赤ちゃんの人数は、今年の6月2日に厚生労働省が発表した昨年(‛22年)の人口動態統計月報によると、前年より4万875人少ない77万747人に。

7年連続で減少し、過去最少を更新しました。

女性1人あたりが一生の間に持つ子供の数を示した「合計特殊出生率」は1.26と、2005年と並び過去最低になります。

少子化の要因として①未婚化②晩婚化③晩産化が挙げられます。

①の未婚化は国勢調査をもとに総務省が作成したデータ(2020年)によると、結婚していない人は、男性で28.3%、女性で17.8%。

それぞれ上昇傾向にあります(『負け犬の遠吠え』が大きくなっているということですね)。

それとは別に、この2~3年はコロナ禍で結婚式が挙げられず、婚姻を延ばしたりするカップルも多く、妊娠が遅くなる傾向もあって、今後の出生数に影響が出る恐れは十分です。

 

②晩婚化は、夫が31.0歳、妻が29.4歳となっており、1985年と比較すると夫は2.8歳、妻は3.9歳上昇しています。

 

③の晩産化では、第一子が30.7歳と、同じく1985年の比較で、4.0歳上昇しています。

 

 

 

【レビュー&エピソード】

 

広告代理店出身の筆者だけに、調査に紐づいた傾向の分析に長けていて、その本質を突き止めズバリと言い切るところが痛快です。

例えば「親が死んだ時のために子供は存在する」さらに「親をきちんと死なせ、その遺体をどうにかする」とも。

この文章は多くの読者のハイライト(Kndleの罫線)が引かれていました(ハッとさせられますよね)。

また、筆者の少子化対策としては「日本人を動かすのに刃物は要らない『皆と一緒でありたい』と思わせればいい」と、こちらも広告代理店のブームのつくり方のセオリー風の文言が。

具体的な手法として「『出産や子育てをして幸せで楽しい』という様子を嘘でもいいから、せっせとネット上に流せば、出生率の上昇に……」とSNSの活用を勧めます。

本書の最後のエッセイの題名は「文学と出生率」。「子宝」という言葉は、万葉集で山上憶良が「子供という宝」と歌ったところから使われました。

平安時代は子を思う親の心を「心の闇」と表現(子を思うと理性を失う)。

ところが徒然草の兼好法師は「子供は持ちたくない~」と書きます。そしてそこから『なんとなく、クリスタル』の田中康夫につなげるのが著者ならではの分析の面白さですね。