羊と鋼の森

CULTURE

2022.12.07

 

 

著者:宮下 奈都

出版社:文春文庫

定価:748円(税込) 

 

 

虎ノ門ヒルズの2階受付フロアにあるファミマは路面店とは異なりインテリア性の高いシックなつくり。
イートインスペースも充実しており、広いテーブルでは打ち合わせもでき、ノート型のPCを開いたり、とゆったり過ごせます。
ブックコーナーもありますが、路面店とはやはり異なり、マガジンラックに無造作に差されたりしておらず、書店と同じく棚置きでジャンルごとに丁寧な陳列がされています。

 

これなら休憩時間や仕事の帰りがけに軽食をとりながら読書という、独りの時間の楽しみも生まれるというもの。
そういう時は気持ちが落ち着くおしゃれな文庫本がデキる女性には相応しい。待ち合わせの際には自分のイメージアップにもつながりそうな作品。
そこで「MUSIC」の棚で選んだのは楽譜と意味深なタイトルのカバーが印象的な本書です。

 

 

【本書のあらすじ】

 

家庭や学校、ホールなどにも出向き、顧客の依頼に応じてピアノの音の高低や音色などを正しく整える作業を行う調律師の道を選んだ、外村青年の青春成長物語。
ピアノとは無縁の暮らしをしていたにもかかわらず、ひたすら音と向き合う仕事に努めます。個性豊かな先輩たちやお得意先の双子の姉妹に囲まれながら調律の森へ奥深く分け入っていく外村。

 

鋼の森とはピアノの弦、羊とは弦を叩くハンマーに使われるフェルトを意味します。大きな事件が起きるわけではありませんが、静かで落ちついた日常の中で、外村青年の仕事に対する真摯さや外村を見守る人たちの優しさが作者の確かな文章力と相まってじわじわと心に沁みてきます。
読了後に立派な調律師になった外村を早く読みたいと余韻が残ります。

 

 

【作者について】

 

宮下奈都(みやした なつ)氏は1967年生まれで福井県出身。
2004年、3人目のお子さんの妊娠中に執筆した「静かな雨」で文學界新人賞に佳作入選し小説家デビュー。2015年刊行された本書は、2016年の第13回本屋大賞を受賞し累計120万部の大ベストセラーに。
登場人物の日常の風景や感情をみずみずしい文章で丁寧にすくいあげる作風が人気です。

 

 

【舞台&背景】

 

小説に具体的な地名は見当たりませんが映画化の際の舞台は北海道でした。作中にある「山間の実家近くの牧場にのんびりと羊が飼われている」という描写は北海道ならでは。
ところで、ピアノ調律技能は国家資格であり、資格取得者の多くは小説のようにピアノメーカーや楽器店に勤務しています。
現在、推定で1万人ほどが活動しているとされており少ない数ではありません。コンサートに赴きピアニストの高度な要求に応える人もいます。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

華やかなピアニストを支える調律という仕事にスポットをあてながら、感動作に仕上がっているのは、スターでなくとも真面目にコツコツとやっていればいつか報われるという美意識が読者の心を打つからでしょう。
美や善という文字には羊が隠れているというちょっとした気づきにもほっこりさせられます。

 

映画化の際(2018年)は、外村青年を山﨑賢人、双子の姉妹を上白石萌音&萌歌姉妹が演じており、鈴木亮平、光石研、三浦友和ら芸達者が脇を固めています。