【Book review】i

CULTURE

2026.10.14

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差別やいじめは常にあらゆる場所で相変わらずに起こる。この不思議さを嘆く

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『i』

著者が作家としての新たな選手宣誓作品と表明する力作。

タイトルのiは「私」、「愛」を表しています

 

著    者:西加奈子

出版社: ポプラ文庫

定    価:748円(税込)

 

カラフルな絵画のコラージュを背景にアルファベットのiの一文字の装丁が目を引きます。

四件ほどの馴染みの書店には本作は陳列されてなくて、代わりに著者のコーナーにはカナダでの自身の乳がん治療を綴った『くもをさがす』の文庫本が棚差しされています。

では、2016年発行の不朽の名作(19年に文庫化)をご紹介します。ネットのオークションでは初版本にプレミアがついて(1,650円の税込価格のところ)6,380円の値が表示されていました。単行本の初版マニア注目です。

 

 

 

【本書のあらすじ】

 

文庫本カバーには紹介文はなくシンプル、装丁の絵画も著者の作品であることを折り返しの小さなクレジットで気が付きました。H.P.には――「この世界にアイは存在しません。」

入学式の翌日、数学教師は言った。ひとりだけ、え、と声を出した。ワイルド曽田アイ。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる、ある「奇跡」が起こるまでは……。――とあり作家、著名人の読後の感想が続きます。

著者インタビューのYouTubeもあって「i(アイ)とは『私』であり『愛』でもある」と著者みずから説明しています。

さらに「この頃は(身の回りに、いや世界に)愛が足りない」とも。

 

 

 

 

【著者について】

 

文庫とH.P.は同じ文面で――西加奈子(にし かなこ) 氏は、1977年、テヘラン生まれ、カイロ・大阪育ち。

2004年、『あおい』でデビュー。

07年に『通天閣』で織田作之助賞、13年に『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年に『サラバ!』で直木賞を受賞。ほか著書に『さくら』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『ふる』『まく子』『おまじない』、絵本に『めだまとやぎ』『きみはうみ』など多数。――とあります。

冒頭でふれた『くもをさがす』は著者初のノンフィクション。24年、第75回読売文学賞(随筆・紀行賞)を受賞。

 

 

 

【レビュー&エピソード】

 

あらすじのところで数学教師が放ったアイという言葉は虚数のiのことで主人公のことを言っているわけではありません。

けれども主人公はこの言葉に囚われます。複雑な出自の事情がそうさせるのでしょうが、それにしても、主人公は繊細過ぎるなぁ、と率直に思った次第です。でも、それは平和な国に生まれ、親のすねを当然のようにかじり、飽食と幸福に腹と心を満たしてきた……私だから?

主人公のアイは1988年シリア生まれの設定です。

主人公をイメージするにあたり、2歳年上とはなりますが、イラン生まれで戦争孤児となり養子となって8歳で来日したサヘル・ローズを重ねてしまいます。ただ彼女は孤児院で育ち、虐待やいじめにもあっているので、i(愛)が不足している環境の側ですよね。養母とホームレス同然の生活をしたこともあるようです。

主人公アイのように恵まれた環境のなかで愛が不足している側の人たちのことを憂ていたわけではありません。

ただ私を含め(幸せに思わなければいけない)安全で快適な場所にいて差別やいじめに心を痛め、そこからつながる争いを嘆くことは、人間として必要な感情であり言動だと思います。

たとえ、お嬢様のたわごとと言われようとも……。ジョン・レノンの「イマジン(これもiからの表記)」を聴きましょう。