【Book review】春の数えかた

CULTURE

2025.04.22

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待ち遠しいから早口で、名残惜しくてゆっくりと、数えかたもふた通り

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『春の数えかた

桜はつぼみを前年の夏に作っておきます。

遺伝子を後世に残すため春の待ち方はみな用意周到

 

著    者:日高敏隆

出版社:新潮文庫

定    価:539円(税込)

 

図書館で借りた本が気に入り、自分の手元に置いておきたくなって、書店に出向き購入する――なんてことはしばしばあるもの。

本書もそのうちのひとつ。春が来る前に読書家の友人から勧められたこの本は、発行年(2001年)に第50回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しています。

名著と呼んで差し支えなく、解説の椎名 誠(しいな まこと)氏も「すぐれた人生の思考の書」と太鼓判を押しています。

文庫化されていて桜の木のある公園で読んだ本は、21年4月で15刷でした。

 

 

 

 

【本書のあらすじ】

 

春が来れば花が咲き虫が集う―当たり前?でもどうやって彼らは春を知るのでしょう?

鳥も植物も虫も、生き物たちは皆それぞれの方法で三寒四温を積算し、季節を計っています。

そして植物は毎年ほぼ同じ高さに花をつけ、虫は時期を合わせて目を覚まし、それを見つけます。自然界の不思議には驚くばかりです。

日本を代表する動物行動学者による、発見に充ちたエッセイ集――文庫本紹介より。

エッセイは本の題名を含めて36本。それに文庫版用のあとがきと解説がつきます。短い文章量ですが含蓄のある内容ばかりで心が満たされます。

リーズナブルな定価設定で、レジにすぐ持っていきたくなります(笑)。

 

 

 

 

【著者について】

 

日高敏隆(ひだか としたか)氏は1930年東京都生まれ。

東京大学理学部動物学科卒業。東京農工大学教授、京都大学教授、滋賀県立大学学長、総合地球環境学研究所所長などを歴任。

京都大学名誉教授。動物行動学をいち早く日本に紹介し、日本動物行動学会を設立、初代会長。本書のほか著書に『チョウはなぜ飛ぶか』『人間は遺伝か環境か?』『ネコはどうしてわがままか』『動物と人間の世界認識』『生きものの流儀』など多数。

訳書には『利己的な遺伝子』『ソロモンの指環』『ファーブル植物記』など――新潮社のH.P.より。

数々の名著を出された日高氏は2009年に79歳でお亡くなりになっています。

 

 

 

 

【レビュー&エピソード】

 

読後の感想は、動植物の不思議な行動を通して、ヒトの行動ひいては生き方にも関わるところを気づかせるところが「面白いなぁ」と。

また「夜の蝶は人間だけ」とか「コム・デ・ギャルソン的な男女の出会い」とか、ユーモアを交えて流行にも例えた表現にセンスを感じ、読書中に頬が緩みます。そして、自分の遺伝子をどれだけ後世に残せるかという賭けに勝つために、動植物が如何に密かに春に備えていることとか、「(花の)蜜はコスト」という表現も面白いと感じました。

文庫化は発行から4年後の2005年に。文庫のカバーの表紙はシロツメクサの葉をくわえる小鳥の周りをミツバチや蝶が舞う構図。一方、図書館で借りた初版の単行本のカバーは、ワンコ(犬)が嗅ぐ水仙の花の下(地中)にアリンコ(蟻)の巣がある表紙。

文庫の解説によると(解説を読むことも文庫の楽しみ!)、初版を手にした椎名 誠氏は、中をぱらぱらやる前に「なんという上品で綺麗な本なのだろう」との第一印象を持たれたとのこと。

さらに、「装画と装丁がなんと心やさしいことであろうか。こういうのを『うつくしい本』というのだな」との記述があります。

単行本も文庫本も装画は、大野八生(おおの やよい)氏が担っておられます。