【Book review】四十歳、未婚出産

CULTURE

2023.09.14

 

🐻

本のなかでなら

人づきあいの苦手な私でも良い隣人と出会える

🐻

 

『四十歳、未婚出産』

 

マタハラ上司なんてぶっ飛ばせ!

産む前も産んだ後も、マザーは強し!!

 

著    者: 垣谷 美雨

出版社:幻冬舎文庫

定    価: 737円(税込)

 

昨年11月に「老後の資金がありません」をご紹介した著者・垣谷美雨氏の別作品となります。

望まないわが子を虐待してしまう親の物話や子供を持たないと決めた方のエッセイを先月読んでいたので、反対に、ハプニングであっても、授かった子を産もうと決めた女性のドラマを読みたくて本書を開きました。

 

 

【本書のあらすじ】

 

本のタイトルが表している通り、シングルマザーの道を選んだ39歳女性の物語(40歳で出産という流れ)。

東京の旅行会社で、課長代理として海外旅行を扱い、バリバリ仕事をこなしている主人公・優子は出張先のカンボジアのアンコールワットで10歳年下のイケメン部下とハプニングで一夜限りの関係を持ってしまいます。その結果、身ごもった優子は、誰にも告げずに子を産む決意を固めます。

果たして、シングルマザーとしてやっていけるのか……とことん悩む間もなく、お腹の膨らみと同じくして、周囲が巻き起こす騒動が大きくなり、出産に関する問題がどんどん膨らんでいきます。

そこには、戸籍(日本と中国だけに戸籍が必要)や、マタニティハラスメント(妊婦に対する嫌がらせ、いわゆるマタハラ)など日本ならではの難問も絡みます。

田舎の実母がパワフルにお話を動かします。2代に渡り、やはり母は強し……ですね。

 

 

【著者について】

 

昨年11月にご紹介していますが、改めて、垣谷美雨(かきや みう)氏は1959年生まれ。

明治大学でフランス文学を専攻し卒業。長らく会社勤めを経たのち、2005年「竜巻ガール」で第27回小説推理新人賞を受賞し、小説家デビュー。

本作品では女性の社会新出を妨げる障害について、また「差別」や「格差」「貧困」といった重厚なテーマも扱いながら、ドラマを観るかのように楽しみながら読み、そして考えることができます。

著者ならではの筆力と言えるでしょう。

 

 

【舞台&背景】

 

2021年発行の本ですから、女性を取り巻く社会的な環境は現在と変わりありません。

主人公・優子は酷いマタハラを上司から受けますが、日本の会社のどこかできっと同じことが行われているに違いないと思わせます。女性の社会進出の推進を国策としている我が国ですから、妊婦であっても働きやすい環境整備が急務かと、それは少子化対策につながることに相違ありません。

世界に目を転じれは、働く女性のロールモデルと言われた、ニュージーランドの元首相(’23年1月辞任)ジェシダ・アーダーン氏は在任期間中に第一子を出産しています。

この国の働く妊婦さんは、わが事のように誇らしいでしょうね(それとも、ただあたり前のことなのでしょうか)。

そこで、キャリアウーマンという観点で世界と比較すると、日本の国家公務員で中級管理職にあたる本省課長級のうち女性は4.9%だそうです(2021年 [経済協力開発機構] 発表)。

日本の次に低い韓国でも25.7%と、20ポイント以上の差があります。

以下トップ5を挙げると

 

ドイツ(51.3%)

カナダ(50.7%)

イギリス(47.6%)

イタリア(42.8%)

フランス(34.8%)

※アメリカは次点の34.4%

 

女性の社会進出が遅れていることがよくわかるデータのひとつかも。「働きながら産む」ことを国政のレベルで一般化すれば、マタハラの問題もなくなるかと思うのですが……。

 

 

 

【レビュー&エピソード】

 

優子はモテないわけではなくて、過去には悲恋もあって結婚していないだけ。

だから、部下の男性のほうからよろめいちゃったんでしょうねぇ。その情事に至る前にカンボジアの社会問題を日常のレベルでわかりやすく描写しているのはさすが。

日常のなかに、いま解決されなければいけない話題を詰め込んで物語をつくるのが垣谷流。「日本人の9割以上が自分のことを年齢の割には若く見えると思っている」とか、時折、ほ~とうなずかされるフレーズも目につきます。

物語は「案ずるより産むが易し」の案ずる部分(出産前の諸問題)に重点を置いて進めています。

ピンチの時には、必ず助けてくれる人が現れてくれて(姉・兄・母、友人・田舎の同級生、そして元不倫相手の役員までも)、戸籍上だけの夫役も現れるとは……ちょっとできすぎ感も。

でも、それがドラマというもの。本のなかでは幸せな気分に浸りたいものです。

産後の暮らしも描かれてお話が終わりますが、めでたしめでたしの、まさしくハッピーエンド。世界中の女性誰しもが、優子のように幸せな出産をしてもらいたいものです。ところが、国連機関の発表した報告書によると、世界では、2分に1人の割合で、妊娠中または出産中に亡くなっているとのこと、その数は287,000人に及びます。

一方、産声をあげることが叶わなかった赤ちゃんの数は、我が国の人口中絶の届け出件数を見ると2020

年の人口動態統計で、141,433件。中絶を行った年齢別では45歳以上が44.2%、40~41歳が21.6%と優子のように出産に至らなかった方も多いことが分かります。

尚、中絶件数は1955年の1,170,143件をピークに毎年最低記録を更新し続けています。