【Book review】恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。

CULTURE

2023.05.03

 

🌷ちょっと心が疲れたら、読書のクスリが効きます🌷

 

 

今だからこそ考えつくことが……

くだらないと思えることにも意味はあります

 

著    者: 角田光代

出版社:KADOKAWA/角川文庫

定    価:572円(税込)

 

角田光代さんの本を取りあげるのは2度目。

前回はコロナ禍の真っ最中、旅に出たくても出られない切ない想いを「旅する作家」としても有名な角田さんのエッセイ集『いつも旅のなか』で癒していただきました。コロナ禍も落ち着いてきた今春、新たな人との出会い(もしかしてそれは恋?)も含めて旅を実行に移す機会がようやく到来。Kindleで「恋と旅」の検索で現れたのが本書です。

 

 

【本書のあらすじ】

 

エッセイ集のタイトルになっている【恋をしよう】【夢をみよう】【旅にでよう】の3部構成。

始まりの【恋をしよう】の出だしのエッセイが「あなたのおうちは散らかっている?」という少々耳の痛いお話。続いて「今日のお昼、何食べた?」と、なかなか恋に続かないのがもどかしい。3話めの「男のどこにぐっとくる?」でようやく恋バナに突入し第4話の「褒め男に遭遇したことある?」で、角川書店の公式ホームページで紹介されるエッセイに遭遇します――

「褒め男」にくらっときたことありますか? 褒め方に下心なく、しかし自分は特別だと錯覚させる。ついに遭遇した褒め男の言葉に私は……ゆるゆると語り合っているうちに元気になれる、傑作エッセイ集(H.Pより)。

その紹介文の見出しには「ああ、女友達とこんな話をしていたら、おもしろくて朝になっちゃう」とあります。著者のあとがきにも「ゆるく酒を飲みながら、あるいはお茶を飲みながら、だらだらと話をしているように読んでもらえたら、いちばんうれしい。」とも書かれています。身近に感じる楽しいお話ばかり50本が詰まっています。

 

【作者について】

 

角田光代(かくたみつよ)氏は1967年生まれで神奈川県出身。

早稲田大学第一文学部卒業後、1990年『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1996年『まどろむ夜のUFO』が野間文芸新人賞、1998年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、2003年『空中庭園』が婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞、2006年『ロック母』が川端康成文学賞、2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』が伊藤整文学賞、2012年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』が泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞、2021年『源氏物語』が読売文学賞と、受賞歴がきらびやかすぎる各賞総なめの実力者。

現在は、いくつかの文学賞の審査員も務められており、誰もが認める日本を代表する作家のひとりとなっておられます。

 

 

 

【舞台&背景】

 

本書は2003年から2005年にかけてウェブマガジンに月2回書かれていたエッセイをまとめたもの。

ウェブでの発表とあって、「今」を大切に。その時に著者の身の回りで起きていることや感じていることが舞台&背景になります。2003年の7月には、著者が、はじめてワンルームの仕事場を借りています。

それが本書の第1話の背景となっているわけです。上記の受賞履歴を考えると、あまりに日常に関するささやかな(失礼)エッセイばかりで、拍子抜けする読者もおられるかもしれませんが、逆に偉大な作家も私たちと同じなんだとホッと感じる方も多いのではないのでしょうか。

著者自身も――「ちょっと申し訳なくなるほどくだらないことが、まあ、よく厭(あ)きもせず、書いてある。しかしそのことは私を安心させる。私は何が起きようとくだらないことしか考えていない、ということが、私を安心させるのである。」とあとがきで述べられています。

著者がくだらないと思えることには、実はある意味が含まれていて、気軽に読みながらも、ついつい感銘を受けてしまう箇所が表われてくるのは、やはり日本を代表する作家のなせるワザなのでしょうね。

 

【レビュー&エピソード】

 

第2部にあたる【夢をみよう】は、向田邦子の魚の切り身にまつわるお話(『家族熱』)から始まり、次なる「理想の女性はだれですか?」では、サザエさんのお母さんの磯野フネを挙げています(ワタクシ的にはこのエッセイがいちばん面白かった)。

ところで第2部には“鼻毛”や“醤油さし”についてから始まるエッセイも含まれていて、扉の【夢】とは少し距離があるのではないか? と思ったり……(面白いのですが・笑)。第3部も、お題は【旅にでよう】なのだけれど、(エッセイの中身は)なかなか旅にでてくれません(苦笑)。

でも旅先で旅とは無関係に気がつくことがあるのも事実(それも旅という時間の使い方の魅力かな・笑)ですよね。閑話休題。TBSラジオの「日曜サンデー」(2023/3/19放送)に著者が出演して、爆笑問題の2人(太田光・田中裕二)とトークしていました。

共通点は、皆、愛猫家であること。著者のアメリカンショートヘアの飼い猫の話で盛り上がっていました。2冊めとなる飼い猫トトに関するエッセイ『明日も一日きみを見てる』が上梓された「今」のタイミングでの出演の意味もきっとあったのでしょう。