ライオンのおやつ

CULTURE

2022.12.28

 

 

著者:小川糸

出版社:ポプラ社

定価:1,650円(税込) 

 

 

用事のついでに飯田橋の駅近1分の「芳進堂書店 ラムラ店」で購入。本の配達もしてくれるという同店で、人気第6位と陳列され2020年本屋大賞第2位と謳うオレンジ色の帯が目立っていました。その帯には「人生の最後に食べたい〝おやつ″はなんですか」というコピーとともに「毎日をもっと大切にしたくなる物語」ともあります。書店の楽しさは、題名だけでは伝わってこない補足の情報が届くワクワクする仕掛けにもありそうです。

 

 

【本書のあらすじ】

 

若くして余命を告げられた女性の主人公・雫(しずく)は、とある島のホスピスで残りの時間を過ごすことを決めます。題名の「ライオン」は、そのホスピスの名称です。初めは減らず口で強がっていた入居者も次第に弱っていって、あの世へ旅立ちます。それが日常として繰り返される「ライオンの家」では、毎週日曜日に、入居者のひとりがおやつをリクエストする習慣があり、そのおやつを、入居者全員でいただきます。死を迎えるにあたり希望するおやつには、それまでの人生への思いが現れ、亡くなった後は残った周囲の人たちの思い出につながります。そんな日常と習慣のもと、先に亡くなった入居者が飼っていた白い犬と暮らしはじめた雫。それは小さい頃からの犬を飼う夢が叶ったことでもありました。島で葡萄を育てワインを醸造している青年にも出会い、恋心が芽生えます。生きていたい気持ちは高まるなかで、おやつをなかなか選ぶことができません。とはいえ容態は悪化し、痛み止めのモルヒネが必要に。時折、意識も混濁していきます。ついに雫がリクエストしたおやつは何だったのか。その理由が明かされたラストが読者の涙を誘います。

 

 

【作者について】

 

小川 糸(おがわ いと)氏は1973年生まれで山形県出身。作詞家、翻訳家としても活躍中。2008年「食堂かたつむり」でデビューし、一躍ベストセラーに。その他、ドラマ化もされた「つるかめ助産院」「ツバキ文具店」など。本作品は2019年10月に刊行されたものを本年10月に文庫化したものです。

 

 

【舞台&背景】

 

舞台となるホスピス「ライオンの家」があるレモン島は瀬戸内海にある設定。橋はかかっているのですが33歳で死ぬことを受け入れた雫は、船で島に渡ります。クリスマスに到着して2月になろうとする頃にあの世に旅立つ、1ヶ月ほどの期間の物語。入居者も管理する側もいずれも個性派ぞろい、でも、どの人も温暖な気候に負けないくらい心が温かい。こんなホスピスで最期を迎えられてよかったねと、雫に声をかけたくなりしんみりします。

 

 

【レビュー&エピソード】

 

死と病という題材にもかかわらず深刻な描写が続くわけではなく、ほっこりした気持ちで読み進められます。でも、その反動で悲しい場面では涙がこみあげてきて困ってしまう。

また、食べることを満たすことは、生きることを満たすこと、と例えるがごとく、病院食のお粥をはじめ、おやつやワインも、とても美味そうに描かれており、喉が鳴って困ってしまいます(笑)。

巻末に雫の死後3日分の話がエピソード的についていて、雫が残したこの世への未練がわかります(こちらは感動)。