【Book review】河童が覗いたヨーロッパ

CULTURE

2021.06.11

 

著者/妹尾 河童

新潮文庫

定価:本体670円+税

 

渋谷スクランブルスクエアに登場した「旅は人をクリエイティブにする」がテーマの、TSUTAYA BOOKSTORE のカフェコーナーの本棚にちょこんとありました。コーヒーをいただきながら(購入前でも読めます)楽しんだのちレジに。約2万冊の旅に関する書物が集まっているとか。コロナ禍で旅に出られないなか、いろいろな旅の気分が味わえてうれしい。

 

さて、本書は初出が1976年であり、年齢で例えるなら45歳になりますが、中年になって益々魅力的なシンガーの如く輝いています。というのも(グーデンベルクの発明とされる活版印刷術に抵抗するように)全頁手書きの文字とイラストによる、まさに手仕事の味わい。しかも扉・目次から始まり、最後のヨーロッパの地図まで297頁もあるのです。また、その作品性もさることながら、題材選びがユニークで眼差しは繊細。

 

例えば、街並みならば建物の窓の形やドアノブなど、細かな形状にも注目して描き込まれ、そこを旅したものでなければわからない空気感も備わった解説文が加わります。読み手の私も、たちまちイラストの世界に引きずりこまれて、ヨーロッパの街角のカフェテリアに居るような錯覚に陥ってしまうのです。